東京弁護士会

「NHK番組改編問題」に関する会長声明

2005年03月08日

東京弁護士会 会長 岩井 重一

今般、2001年1月30日にNHK教育テレビにおいて放送されたドキュメンタリー番組「問われる戦時性暴力」が放送直前に改編されたことに関し、NHKから政権を担う政党である自由民主党幹部に事前説明が行われていたことが明らかとなった。このような事前説明は、憲法21条の保障する表現の自由、知る権利の侵害、検閲につながるものであり、このことは民主主義社会の根幹を揺るがしかねないものである。
本件については、2005年2月12日に朝日新聞が報じて以降、番組担当デスクであったNHK番組制作局の長井暁チーフプロデューサーによる「内部告発」、これに対するNHK当局の反論、さらには番組に圧力を加えたと報じられた中川昭一・現経産相、安倍晋三・現自民党幹事長代理らからの反論もなされており、事案の真相については、現時点で必ずしも明らかでない部分がある。真相の解明については、今後関係各当事者の真摯な対応によって、明らかにされるべきである。
ところで、関係各当事者らの話により現時点でも以下の事実が明らかとなっている。
(1) 「問われる戦時性暴力」は、放送直前に松尾武放送総局長、伊藤律子番組制作局長、野島直樹国会対策担当局長(いずれも当時)らNHK上層部の指示により、まず1分間、後に3分間、合計4分間がカットされ、内容的にも当初のものと比べかなりの改編がなされた。
(2) 松尾総局長、野島局長らは、「問われる戦時性暴力」放送前に安倍晋三氏に会い、番組内容について説明した。
(3) 放送の前か後かは関係者の言い分が変わっており、必ずしもはっきりしないが、松尾総局長らは、中川昭一氏に会い、番組内容について説明した。
(4) 2005年1月19日、NHK関根昭義放送総局長(当時)が会見して、政治家への番組説明について、「放送法上、NHK予算は国会の承認を得なくてはならず、議員に事業計画や個別の番組について正確に理解してもらう必要がある。当然の対応だ」と説明した。
(5) 2005年2月4日、NHK橋本元一新会長は、上記「事前説明」は「好ましくない」と表明したものの、翌日には、国会における委員会で問い質され、「お伺いを立てるというのがいけないのであって、『事前説明』はいけないわけではない」と、発言を撤回もしくは後退させた。
以上の(1)ないし(5)の事実を総合的に考慮するならば、NHKは、番組内容について政治家に対して、しばしば事前説明を行ってきており、そのような行動が憲法21条の検閲禁止の規定との関係で問題になるとの認識が希薄であることが明らかになった。
仮に、政治家、特に政権を担う政党の幹部が放送内容についてNHKから事前に説明を受け、番組内容について意見を述べることが許されるとしたら、政権党に不都合な言論の規制が容易になされ、国民の知る権利が侵害される危険性が極めて大きいものと言わざるを得ない。
このような事態を防止するため、放送法は、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」を目的の一つとし(1条2号)、また、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と定めている(3条)。
国民の情報取得が新聞、テレビ、ラジオなどのメディアにその多くを依拠せざるを得ない今日、表現の自由の擁護、知る権利の保障、検閲の禁止こそ、民主主義社会の根幹をなすものであることを、改めて確認すべきである。
当会は、NHKに対し、今後、放送法を遵守し、番組に関する政治家への事前説明を中止し、何人からも干渉されることのない番組制作を求めるとともに、他の放送事業者においても、今回のNHKの問題を教訓とし、放送の不偏不党の姿勢を堅持されるよう期待するものである。

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