東京弁護士会

拙速な生活保護基準の引き下げに反対する声明

2007年11月19日

東京弁護士会 会長 下河邉 和彦

 厚生労働省は、本年10月19日、学識経験者によって構成される「生活扶助基準に関する検討会(第1回)」(以下「検討会」という。)を開催し、さらに10月30日、11月8日とあわせて3回の検討会を開催し、11月20日には第4回の開催を予定している。同検討会の趣旨は、2006(平成18)年7月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」が「生活扶助基準について、低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直し」及び「級地の見直し」を行うこととしていることを踏まえ、級地を含み生活扶助基準の見直しについて分析・検討するというものである。検討スケジュールは「平成20年度予算編成を視野に入れて結論が得られるよう検討する」とされている。
既に開催された3回の検討会では、生活保護を受給していない年間収入階級第1・十分位の世帯(全世帯を収入の多い順に並べて十の階級に分けた場合に最も少ない階級に属する世帯)の消費水準に着目することが適当とされ、同世帯の生活扶助相当支出額が生活扶助基準額よりも低くなっていることなどの比較をし、その均衡を図る検討がなされている。このことからすれば、検討会が現行生活保護基準の引き下げを目指していることは明らかである。
生活保護基準は、生活保護法8条に基づき厚生労働大臣が定めるものであるが、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための基準であって、国民の生存権保障に直結する極めて重要な基準である。
ところが、生活保護基準については、老齢加算の廃止、母子加算の削減などによる引き下げが続いており、これに加えて衣食その他日常生活の需要を満たすために必要な生活扶助基準の引き下げが行われるようなことになれば、150万人を超える生活保護利用者の暮らしを根底から脅かすことになる。
生活保護基準は、地方税の非課税基準額をはじめ、介護保険や障害者自立支援法の利用料の減額基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。このため、生活保護基準の引き下げは、これらの低所得者層施策が受けられなくなる層を拡大させることにもなる。
昨年10月の日本弁護士連合会第49回人権擁護大会で採択された「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」でも指摘されているとおり、わが国では生活保護の捕捉率が極めて低く、生活保護基準以下の収入で生活する世帯が多数存在するのであり、こうした世帯の消費水準との均衡を理由として生活保護基準を引き下げることは、憲法の生存権保障の趣旨を没却するものである。
去る11月8日に当会を含む東京三弁護士会が実施した生活保護110番では、生活に困窮した市民からの切実な相談が多数寄せられた。
生活保護基準の引き下げは、現に生活保護を利用している人だけでなく、わが国の低所得者層の生活全般に直ちに影響を及ぼす極めて重大な問題であるから、生活保護基準に関する議論は、生活保護利用者は勿論、広く市民にも意見を求めて、十分に時間をかけてなされるべきである。
厚生労働省及び検討会に対し、生活保護利用者や市民の声を十分に聴取し、慎重な検討を行うことを強く求めるとともに、安易かつ拙速な生活保護基準の切り下げには断固として反対するものである。

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