アクセス
JP EN

制限金利・上限金利引き上げと総量規制撤廃に反対する会長声明

2012年07月11日

東京弁護士会 会長 斎藤 義房

「出資法上限金利の引き下げ」や「総量規制の導入」などの画期的内容を含む貸金業法、出資法等の改正が2006年12月に行われ、2010年6月18日に完全施行されて2年が経過した。

貸金業法等の改正当時と比較すれば、5社以上から借り入れている「多重債務者」が230万人から44万人に、自己破産者が約17万人から約10万人にそれぞれ大幅に減少し、多重債務を原因とする自殺者が1973人から998人に半減するなど、同法等による多重債務対策は具体的な成果をあげている。2008年秋のリーマン・ショック以降の経済状況の悪化にも拘わらず、多重債務問題の深刻化を効果的に抑制している同法等は、国民生活の安定という観点から高く評価されるべきである。

ところが、現在一部の国会議員が、「正規の業者から借りられない人がヤミ金から借入れざるを得ず、潜在的なヤミ金被害が広がっている、零細な中小企業の短期融資の需要がある」などとして、利息制限法制限金利(15-20%)と出資法上限金利(20%)の約30%への引き上げ、および総量規制の撤廃を主張している。

しかし、ヤミ金被害について言えば、2003年のヤミ金対策法施行、犯罪利用預金口座凍結、犯罪利用携帯電話の利用停止、警察による取締の厳格化などにより、被害人員、被害額とも減少の一途である。また、ヤミ金被害を根絶するには、ヤミ金取締施策を更に徹底すると同時に、相談体制を更に充実し、借りられない人に対するセーフティーネットの活用などをはかることによって多重債務者をなくすことが必要である。

他方、中小企業の短期融資需要について言えば、そもそも改正貸金業法は、法人を総量規制の対象外としている。また、個人事業者向けにも、総量規制を超える例外的貸付を認めており、既に一定の実績を有している。さらに、景気の急速な悪化を受けて、政府は緊急保証制度、セーフティーネット貸付、返済猶予や融資の条件変更を促す中小企業金融円滑化法などの施策を次々と実行し、中小企業の資金繰りを支援してきた。その結果、中小企業の倒産数は、リーマン・ショック以降も減少しており、2011年には20年振りに1万3000件を下回った。現在必要とされるのは、これらの中小企業支援策を更に徹底して実行することであり、過剰な貸付を高利で提供することではない。

したがって、一部の国会議員による制限金利・上限金利引き上げと総量規制撤廃を求める主張は、その前提を欠く。

いま制限金利・上限金利が30%に引き上げられ総量規制が撤廃されれば、多重債務者・自己破産者、多重債務を原因とする自殺者、経営破綻する企業・事業者がふたたび増加することは過去の経験から明らかである。

よって、当会は、国民生活を破壊する制限金利・上限金利の引き上げと総量規制撤廃に強く反対するものである。