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生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明

2013年01月10日

東京弁護士会 会長 斎藤 義房

1.昨年8月10日成立した社会保障制度改革推進法の附則2条では、「水準の適正化」を含む生活保護制度の見直しを行うと定められた。これを踏まえて、同月17日に閣議決定された「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」では、「特に財政に大きな負荷となっている社会保障分野についても、これを聖域視することなく、生活保護の見直しをはじめとして、最大限の効率化を図る」こと、「自然増を含め、年金・医療等に係る経費についても、生活保護の見直しをはじめとして合理化・効率化に最大限取り組み、その結果を平成25年度予算に反映させるなど、極力圧縮に努めることとする」との基本方針が示されている。
2013年度予算において、生活保護基準が切り下げられることが強く懸念される。

2.しかし、生活保護基準の切り下げには大きな問題がある。
(1)生活保護基準は憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営める水準でなければならない。
2008年6月26日、東京地裁判決は「基準生活費の減額が問題とされるのであれば、法の要求する生活水準を満たすかどうかという観点から、被保護者の生活実態に係る調査を行うことが極めて強く要求される」と判断している。
しかし、生活保護基準見直しの閣議決定は、憲法上保障された生活が営めるか生活水準であるか否かの検証が一切されていない。

(2)また、2010年4月9日付厚生労働省発表の「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば、生活保護制度の捕捉率(制度を利用できる資格がある人の中で生活保護制度を利用している人の割合)は15.3%から32.1%であり、生活保護基準以下の生活水準でありながら、生活保護制度を利用していない者が現在生活保護制度を利用している者の3倍以上にのぼることが明らかになっている。今取り組むべき課題は、生活保護制度から漏れている多くの低所得者を救済することであり、生活保護費を「極力圧縮」することではない。
生活保護費を「極力圧縮」することは、生活保護を利用しているわずかな人の最低限の生活さえも危うくすることになる。

3.また、生活保護基準の切り下げは、生活保護利用者だけの問題ではない。
生活保護基準は、住民税の非課税基準、国民健康保険料の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減免基準、就学援助金の利用基準、日本司法支援センターの民事法律扶助の援助基準など生活の中の多様な分野の施策に関連している。
さらに、生活保護基準は最低賃金の指標にもなっているので、これが引き下げられると最低賃金の指標も下がることになり、今でさえ生活することが困難な最低賃金がいっそう引き下げられることにもつながる。

4.生活保護利用者が急増し過去最高となったことは、非正規労働者の増加による雇用の不安定化と雇用保険の脆弱さ、年金制度が脆弱である中で高齢化社会を迎え、低年金者・無年金者が増大したことが原因である。
雇用の不安定化や、雇用保険・年金などの社会保障制度が脆弱なもとでは、生活保護利用者が増えるのは当然である。むしろ、生活保護こそが国民の命と生活を支えているとさえ言えるのである。
貧困と格差が拡大している今日であるからこそ、生活保護が積極的に活用されなければならない。
生活を支える重要な制度である生活保護制度の検討を行う場合には、専門家の知見や生活保護利用者の声を反映させるなど慎重に行うべきである。

以上の理由により、当会は今年度の予算編成において生活保護基準を引き下げることに強く反対するものである。