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内閣総理大臣の靖国神社参拝に抗議する会長談話

2013年12月26日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎


 第1次内閣当時、外交的配慮から参拝を見送っていた安倍晋三内閣総理大臣は、本年12月26日、靖国神社に参拝した。現職内閣総理大臣の参拝は、2006年8月15日の小泉内閣総理大臣以来7年4ヶ月ぶりである。安倍内閣総理大臣は参拝後、「戦争の惨禍を繰り返さないという『不戦の誓い』のために参拝した」、「戦場で亡くなった英霊の冥福を祈ることは世界共通のリーダーの姿勢だ」との旨を記者団に語った。この参拝は、広く報道される状況下において、公用車を使用し、秘書官を同行し、内閣総理大臣の肩書で記帳及び献花をしたもので、このような形で行われた参拝は、内閣総理大臣として行われた公式参拝と評価せざるを得ない。
 日本国憲法は、平和主義とともに、制度的保障の一つとして政教分離原則を掲げている。政教分離原則は、政治と宗教の厳格な分離を定めたものであって、宗教団体が国から特権を受け、又は政治上の権力を行使することを禁じ(第20条1項後段)、国及びその機関のいかなる宗教的活動をも禁じ(同条3項)、宗教上の組織若しくは団体に対しての公金その他の公の財産の支出を禁じている(第89条前段)。ところが、靖国神社は一宗教法人に過ぎず、国政の最高責任者である内閣総理大臣がその地位にあるものとして靖国神社に公式参拝することは、靖国神社を援助、助長、促進する効果をもたらすものとして、政教分離原則に違反する疑いが強い。
 加えて、靖国神社は、先の「大東亜戦争は正しい戦争だった」とする歴史観(聖戦思想)に立ち、A級戦犯を合祀しているだけではなく、そもそも戦死者の「追悼」施設ではなく「顕彰」施設である点にその本質がある。すなわち、国のために戦死することを最大の栄誉としてまつる精神システムとして機能してきた点を、見逃すことは出来ない。
 折しも、昨年4月に発表された自由民主党の憲法改正草案は、現行憲法前文から平和的生存権を削除し、第9条に国防軍を設置することを明記し、国民に「誇りと気概を持って自ら領土を守る」義務を課すなど、国防への国民の協力・動員につながる憲法改正を目指している。また、先の臨時国会での法改正により外交・防衛の司令塔としての国家安全保障会議(日本版NSC)が始動し、これと一体をなす特定秘密保護法が成立、来年には国家安全保障基本法の制定と集団的自衛権の容認が目論まれており、現行憲法の恒久平和主義がなし崩しにされていくおそれが強い。今回の安倍内閣総理大臣の参拝は、これらの動きと符節を同じくするものと言わざるを得ない。
 そして、安倍内閣総理大臣の靖国神社参拝は、近時緊張の高まっている中国や韓国の一層強い反発を招くものであり、「不戦の誓い」にまったく逆行するものである。
 当会は、憲法を擁護すべき立場にある法律家団体として、国民の平和的生存権を危うくする明文、解釈改憲の動きに引き続き反対するとともに、憲法の政教分離原則に違反する疑いが強く、国民を精神的に戦争へ向かわせようと企図する安倍内閣総理大臣の靖国神社参拝に、強く抗議する。