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袴田事件の再審開始決定に関する会長声明

2014年03月27日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

 本日、静岡地方裁判所は、「袴田事件」に関する袴田巌氏の第2次再審請求につき、再審開始、死刑及び拘置の執行停止を決定した。
 この事件は、1966年6月に静岡県清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害、放火された事件につき、袴田氏が強盗殺人放火の罪を問われたものである。
 袴田氏は、1966年8月に強盗殺人、放火、窃盗の容疑で逮捕され、当初は頑強に犯行を否認していたが、勾留期限3日前に一転自白したことを受け、起訴された。そして、第1審の静岡地方裁判所の第1回公判以降は、一貫して無実を主張したが、後に味噌製造工場の味噌タンク内から血液が付着した5点の衣類が発見されたことなどから、1968年9月に死刑判決が言い渡され、控訴、上告するも、1980年12月最高裁判所で死刑が確定した。
 このため、1981年以降、再審請求をして闘ってきたが、逮捕から48年、死刑判決から34年を経た本日、再審開始決定に至った。
 袴田氏は、この長期間にわたり、想像を絶する精神的、肉体的苦痛を受けてきた。

 本日の再審開始決定は、弁護団側のDNA鑑定の証拠能力について、「5点の衣類が袴田死刑囚のものでも、犯行着衣でもなく、後日ねつ造されたものであったとの疑いを生じさせるものだ」と指摘し、袴田氏を犯人とするには合理的な疑いが残るとして再審開始を決定したもので、科学的な鑑定を虚心坦懐に見つめ、"疑わしきは被告人の利益に"という刑事裁判の鉄則を貫いたものとして極めて妥当なものである。
 また、今回の決定では、拘置の執行停止がなされた。これは、死刑囚の再審開始が決定された事案としては初めてのことであり、画期的な決定である。多くの確定死刑囚が拘禁反応に苦しむ中、早期に身体拘束からの解放を決定した裁判所の判断は、大いに評価される。

 当会は、検察庁に対し、再審決定にある「無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかになった現在、これ以上、袴田に対する拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する状況にある」との旨の決定文を重く受け止め、本日の決定に対して即時抗告をせず、高齢の袴田氏に対しこれ以上の精神的、肉体的苦痛を与えることのないよう強く求める。また、本日の決定を踏まえて、科学捜査をより一層充実させ、自白に偏重したこれまでの捜査手法を、直ちに改めるよう求める。

 いうまでもなく、冤罪は国家による最大の人権侵害である。とりわけ死刑判決を受けた者の心身への悪影響、人権侵害の程度は想像を絶するものがある。
 当会は、冤罪を訴え、再審の支援を求める多くの声にこたえるため、これまで調査、検討を続けてきたが、今後も、冤罪事件からの救済に向けて、より一層の努力をしていく所存である。