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行政書士法改正に反対する会長声明

2014年05月07日

東京弁護士会 会長 髙中 正彦

 日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求めてそのための運動を推進してきた。そして,今後国会に前記業務を行政書士の業務範囲とする議案が議員立法として提出される可能性がある。
 しかし,既に,2012年(平成24年)8月10日に日本弁護士連合会が会長声明を発表し,その後各地の弁護士会が各会長声明にて反対の立場を表明しているように,前記の業務を行政書士の業務範囲に加えることは国民の権利利益の擁護を危うくするものであり,当会も以下を理由に反対の意見を表明するものである。
 なお,2014年(平成26年)3月になって日本行政書士会連合会は,代理権の範囲を絞り込み,行政書士が作成した提出書類にかかる許認可等の不服申立てに限定するという見直し案を出してきたが,このような限定をしたとしても,行政書士が代理権をもつことによる問題は何ら解決されたものではない。

 第1に,行政書士の主たる職務は,行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的として,行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出するというものである。一方,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度である。行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする行政書士が,行政庁の行った処分に対しその是正を求めるということは,その職務の性質上本質的に相容れないものである。

 第2に,行政不服申立ては,国民と行政庁が鋭く対立する事件であるが,行政書士に対する懲戒処分並びに行政書士会に対する監督は都道府県知事が行い,日本行政書士会連合会に対する監督は総務大臣が行うものとされている。このような立場にある行政書士が国民の代理人となって行政庁と鋭く対決して,国民の権利を守ることができるのか大いに疑問がある。このような代理制度は,国民の権利利益の実現を危うくするものである。
 行政庁の行為に対する行政不服申立ての代理行為は,弁護士自治により国家機関からの独立が担保された弁護士こそが行うべき業務である。

 第3に,行政書士が行政不服申立ての代理人を務めるには,その能力担保が充分とはいえない。行政不服申立ての代理行為は,行政訴訟の提起も十二分に視野に入れて行うべきところ,行政事件訴訟法や民事訴訟法の素養が制度上担保されていない行政書士には行政不服申立ての代理人となる能力に欠けるといわざるを得ない。法律事務処理の初期段階で適正な判断を誤ると,直ちに国民の権利利益を害することにつながりかねない。行政書士が私人間の紛争案件の初期段階で不当に関与し不適切な処理をしたことによって,依頼者の権利利益が救済されないどころか,かえって被害が拡大したという例が報告されている。行政不服申立ての代理人となるには,より高度な専門性と慎重かつ適切な判断が不可欠である。

 第4に,行政書士については,倫理綱領が定められているものの,当事者の利害や利益が鋭く対立する紛争事件を取り扱うことを前提にする弁護士倫理とは異なる内容となっている。行政不服申立ては,国民と行政庁とが鋭く対立するのであって,このような案件を行政書士が代理行為を行うこと自体で国民の権利利益が侵害されることが懸念されるのである。国民の権利利益が行政処分によって侵害された場合,その不服申立手続によってさらに国民の権利利益が侵害されるとの事態は絶対に避けなければならない。

 第5に,仮に行政書士が行政不服申立ての代理権を獲得したとしても,その活動分野は限定されることが予想され,影響は小さいとの指摘がある。しかし,国民の権利利益自体に対する問題を活動分野の大小で計ること自体が大いに問題である。

 第6に,弁護士は行政手続業務を担っていないとの指摘もあるが,近年では多くの弁護士が代理人として活躍している。たとえば,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく行政手続について,日本弁護士連合会が日本司法支援センターに委託して実施する法律援助事業を利用し,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を確実に上げている。2014年(平成26年)4月1日現在,弁護士の人数は3万5113人であり,今後も毎年相当数の増加が見込まれている。したがって,行政不服申立ての分野に弁護士が今以上に進出していくことは確実であり,行政不服申立ての分野において国民の権利利益の擁護に支障をきたす懸念は全く存在しない。

 以上のとおり,当会は,行政書士に対する行政不服申立代理権の付与に強く反対する。