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憲法第9条をなし崩し的に事実上改変する「平和安全法制整備法」案及び「国際平和支援法」案の国会提出に抗議し、廃案を求める会長声明

2015年05月18日

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

 政府は、5月14日、「いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備する」と称し、自衛隊法や武力攻撃事態法・周辺事態安全確保法等の関連10法案を一括して改定する「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平和安全法制整備法)」と、国際的な協力活動の中で戦争中の他国軍を後方支援するための「国際平和共同対処事態に際してわが国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律(国際平和支援法)」(以下併せて「本法案」という)を閣議決定し、同15日に国会に提出した。
 本法案は、昨年7月1日にそれまでの政府解釈を変更して集団的自衛権行使等を容認した閣議決定の具体的立法化であるが、それに留まらず、本年4月27日に18年ぶりに改定が合意された「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」を受けて世界中のどの地域でも自衛隊の軍事的協力を可能にしており、憲法第9条の「戦争放棄」「武力不保持」の恒久平和主義の理念を、憲法改正手続を経ることなく法律をもってなし崩し的に事実上変更するものである。
 このような閣議決定及び法律によって憲法第9条の理念を事実上変更してしまうことは、立憲主義に明らかに反しており、本法案は憲法第9条に反する違憲なものとして、到底認められない。なお、直近(5月3日)の世論調査(毎日新聞)において、憲法第9条については「改正すべきでない」が57%で「改正すべき」の36%を大きく上回っており、国民の多くは憲法第9条を変えることを望んでいないのであって、国民主権原理に照らしても、許されない手法である。
 当会は、昨年の7月1日の集団的自衛権行使容認等の閣議決定の際にも、これに抗議し撤回を求める会長声明を発表したが、にもかかわらずこのような具体的立法化がなされようとしていることは誠に遺憾であり、強く抗議する。
 具体的な本法案の問題点は多岐に及んでいるが、例えば、
(1) 政府は「集団的自衛権行使の要件として昨年7月1日の閣議決定の3要件をすべて明文化し厳格な歯止めを定めた」と称しているが、新たに自衛隊が武力行使できる場合として「存立危機事態」という概念が武力攻撃事態法や自衛隊法に新たに規定されているものの、その「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求権の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」とはどのような場合なのかは全く不明であり、その判断が時々の政権に委ねられるとすれば、時の政権の恣意的な判断で自衛隊の海外での武力行使が行われることになりかねず、何ら歯止めになっていない。「他に適当な手段がないとき」「必要最小限度の実力」という要件にしても、その判断が時の政権に委ねられる限り、何ら歯止めにはならない。「国会の事前承認」にしても、緊急時の例外を認める限り、やはり歯止めにはなり得ない。むしろ、個別的自衛権の範囲を超えた武力行使にはそのような歯止めが事実上不可能であればこそ、国の武力行使を禁じている憲法第9条の下では集団的自衛権は認められて来なかったのである。今回の法案は明らかに憲法第9条に反する。
(2) 本法案は、従前の周辺事態安全確保法を重要影響事態安全確保法に改定し、「我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態」(この要件もまた不明確で判断も時の政権に委ねられる)には自衛隊が他国軍の支援活動をできるとして、その地域を日本周辺に限定せず地球規模に広げたほか、アメリカ軍以外の外国軍の支援も可能で、活動できる場所も従前の「非戦闘地域」から「現に戦闘行為が行われている現場以外の場所」ヘと拡大し、更には「後方支援」として弾薬の提供や兵員の輸送、戦闘機等への給油・整備等も可能としている。しかし、そのような「後方支援」は、現に戦闘が行われている場所でなくても戦闘の相手側からすればまさに「戦争行為」そのものにほかならず、戦争において相手側の武器・兵員・燃料・兵糧等の補給を断つことは兵法の第一義であるから、自衛隊がそのような後方支援をすることは、自衛隊そのものへの武力攻撃を招くことになりかねず、まさに我が国が他国の戦争に巻き込まれる事態が世界中で発生する危険性がある。
(3) 本法案のうち「国際平和支援法」は新たに制定しようとするものであるが、この法案に至っては「我が国の平和と安全への影響」すら要件とせず、国連が特定の紛争事態に対して平和に対する脅威又は平和への破壊であると認識を示し加盟国に取り組みを求める決議をすれば、それに呼応して戦闘行為を行う国への「後方支援」活動(武器・兵員・燃料・兵糧等の補給)を認めようというもので、そのような後方支援もまた武力行使の一環であることからすれば、「例外なき国会の事前承認」を要件とはしているものの、明らかに「国際紛争を解決する手段」としての武力行使にあたり、憲法第9条に反すると言わざるを得ない。
 本法案の問題点は他にも多数存在しており、いずれも憲法第9条の「戦争放棄」「武力不保持」及び前文の平和的生存権等から導かれる恒久平和主義に明らかに抵触するにもかかわらず、政府はこれらの法案を一括審議として7月末までに可決を目指していると言われており、そのあまりに拙速すぎるやり方は憲法第9条をないがしろにする暴挙としか言いようがない。
 当会は、本法案は憲法第9条をなし崩し的に事実上改変するものであり、立憲主義及び憲法第9条の恒久的平和主義に反するものとしてこれに強く反対するとともに、本法案の国会提出に抗議し、廃案となることを求めるものである。

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