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夫婦同氏強制及び再婚禁止期間等に関し、最高裁判決を受けて民法の差別的規定の早期改正を求める会長声明

2015年12月17日

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

 昨日(12月16日)、最高裁判所大法廷は、夫婦同氏を強制する民法750条について「家族の呼称を一つに定めることには合理性がある」として憲法13条・14条・24条のいずれにも違反しないと判断した。
 一方、女性のみ再婚禁止期間を定める民法733条については「100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すもの」としたうえで、憲法14条1項・24条2項に違反するとしたものの、この違憲規定を放置してきた国会の立法不作為については「婚姻及び家族に関する事項については、その具体的な制度の構築が第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねられる」とし、違法とまではいえないとした。
 当会はこれまでも両規定について人権侵害ないし不合理な差別であることを指摘し、速やかに民法改正を求める声明を出してきた(2010年3月4日「民法(家族法部分)の早期改正を求める会長声明」2013年9月5日「民法(家族法)の改正を求める会長声明」2015年3月2日「夫婦同氏強制及び再婚禁止期間等の民法の差別的規定の早期改正を求める会長声明」など)。
 このたびの最高裁判決が民法733条の違憲性を明らかにしたことは当会の主張と合致するものとして高く評価できる。しかし、そうでありながら、この違憲の法律を改正しなかった国会の責任を不問としたことは、判断を誤ったものであり不当である。
 また同じ日の最高裁判決で、夫婦同氏強制を定める民法750条について合憲としたことは、極めて不当であり、国内のみならず世界的にも驚愕と批判にさらされることになる。当会で繰り返し指摘してきたとおり、民法750条が夫婦に同氏を強制する結果、96.1%の夫婦において妻が改氏するという異常な実質的不平等が生じている上(2014年厚生労働省人口動態統計)、改氏を余儀なくされることにより生じる不利益は甚大である。氏名は個人として尊重される基礎であり、人格の象徴として人格権の一内容を構成するものであるから(最高裁昭和63年2月16日判決)、自己の生来の氏が婚姻後使用できなくなることは、明らかな人権侵害である。これは人権侵害の問題なのであって、決して大法廷の多数意見のように、氏の変更に伴う「不利益」について「氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るもの」として済ますことのできる問題ではない。
 1996年に法制審議会が「民法の一部を改正する法律案要綱」において、男女ともに婚姻年齢を満18歳とすること、選択的夫婦別氏制度を採用し、再婚禁止期間については見直すことなどを内容とする民法改正案を答申してから19年が経過した。また、これら各規定については、女性差別撤廃委員会等からも繰り返し法改正をすべきとの勧告を受けてきてきた。同委員会は、2009年、2011年及び2013年には、女性のみに課せられている6カ月の再婚禁止期間を廃止すること及び選択的夫婦別氏制度を採用することを内容とする法改正のために早急な対策を講じるように要請するに至っている。
 判決では民法750条について、多数意見では合憲と判断されたが、15名の裁判官のうち5名(女性裁判官3名すべてが含まれる)はその意見において「憲法24条に違反する」と明言した。いずれも、問題となっているのは夫婦同氏の合理性ではなく、それに例外が許されないことの合理性であると的確に指摘した。岡部喜代子裁判官は違憲の理由として女性の社会的経済的・家庭生活における立場の弱さに言及し、「夫の氏を称することが妻の意思に基づくものであるとしても、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用している」とし、その点に配慮しないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とは言えない」と多数意見を厳しく批判し、国に対して法改正を求めるものであった。また、山浦善樹裁判官は前述の法制審議会答申以降の相当期間を経過しても国会が改廃の等の立法措置を怠っていたものとして、国家賠償法上も違法であると踏み込んだ意見を述べている。
 多数意見も民法750条は合憲としながらも選択的夫婦別氏制度を採用するか否かを含め「国会で論ぜられ、判断されるべき事項にほかならない」として、国会にボールを投げた格好となった。
 当会は、国に対し、両規定を含む民法の家族法の差別的な各規定とそれに関連する法令を速やかに改正するよう、重ねて強く求めるものである。

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