東京弁護士会

当会会員に対する、東京地方裁判所の「日本国籍の確認がとれないことを理由とする司法委員への選任拒絶」に抗議する会長声明

2017年02月08日

東京弁護士会 会長 小林 元治

1 当会は、2016(平成28)年9月15日、東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)に対し、2017(平成29)年度の司法委員となるべき複数の会員を推薦したが、それらの当会会員のうち外国籍の会員2名(以下「当該会員ら」という。)について、東京地裁は同年10月14日、当会に対し、当該会員らが日本国籍を有するか否かを照会してきた(氏名により外国籍と推察したものと思われる。)。当会は、同月20日、東京地裁に対し、当該会員らが日本国籍を有するか否かは司法委員の選考事務に必要な情報とは認められないため回答を差し控える旨の回答をした。その後、東京地裁は、同年12月20日、当会に対し当会が推薦した候補者のうち上記照会のあった当該会員らを除く全員を司法委員となるべき者として選任する手続を終了したことを通知した。
 当会は当該会員らの国籍を回答しておらず、東京地裁も当該会員らを司法委員となるべき者に選任しなかった理由を明示しているわけではないが、上記のような経緯からして、日本国籍が確認できないことを理由に東京地裁が当該会員らの司法委員選任を拒絶したことは明らかである。
2 東京地裁から当会に対し当会が司法委員の候補者として推薦した会員の日本国籍の有無に関する照会がなされ、当会が回答を拒否し、東京地裁が当該会員を司法委員となるべき者に選任しないという事態は、2006(平成18)年以降も繰り返されており、当会はそのたびに東京地裁に対し日本国籍の有無に拘わらず適任者を選任する扱いとするよう求めてきた(当会が調停委員の候補者として推薦した会員についても同様のことが繰り返し起きており、問題状況は同じである。)。
3 東京地裁は、日本国籍の確認がとれない当該会員らを司法委員となるべき者に選任しない理由を明らかにしていないが、最高裁判所は、日本弁護士連合会からの照会に対し、最高裁判所の事務部門の取扱いとして、「法令等の明文上の根拠規定はないが、公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とする公務員には、日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ、調停委員及び司法委員はこれらの公務員に該当するため、その就任のためには日本国籍が必要と考えている。」旨回答しており(以下「事務部門取扱い」という。)、今回の東京地裁による扱いもこれに倣ったものと考えられる。
4 事務部門取扱いは最高裁判所2005(平成17)年1月26日判決(以下「2005年最判」という。)を参考にしたものと思われるが、2005年最判は、地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることが違憲・違法ではないと判断したにとどまり、その趣旨が国家公務員に及ぶか、日本国籍を有しない者を任用すること自体が違憲・違法の問題を生じるかについては何ら語っていないし、「日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されている」という文言の前に「原則として」という文言をおくことで例外にあたる取扱いも許容されることを示唆している。それにも拘わらず、事務部門取扱いは2005年最判の「原則として」という部分を殊更に無視し、明文上の根拠規定が何ら存在しないのに、日本国籍を司法委員への就任の要件とする立場をとっている。この立場は、法が公示され明確であることを要請する法の支配に明らかに反するものである。
 さらに、事務部門取扱いは公権力行使等を行う公務員への就任には日本国籍が必要であると述べるが、そもそも司法委員は公権力行使等を行う公務員にあたらない。司法委員は特別職国家公務員であり、その職務は裁判官が和解を試みるときにその補助をしたり審理に立ち会って裁判官に参考となる意見を述べたりすることであり、裁判官の許可がなければ証人等に直接に問いを発することもできず、司法委員の意見はあくまで参考意見であり裁判所に対する拘束力はない。
 このような司法委員の職務内容及び権限からすれば、司法委員が公権力行使等を行う公務員にあたらないことは明らかである。従って、司法委員選任拒絶に関する事務部門取扱いは、外国籍の者に対して合理的理由がないのに特定の公務への就任を拒否する内容であり、憲法第14条1項に反するものである。
5 また、我が国には、サンフランシスコ講和条約によって一方的に日本国籍を離脱させられたまま日本での生活を余儀なくされ日本社会の構成員となっている旧植民地出身者及びその子孫等の特別永住者やこれに準じる定住外国人が多数存在し、日本の司法試験に合格して弁護士として知識・経験を積んで活躍している者も少なくない。そのような者のうち当会が東京地裁に推薦した当該会員らは、司法委員として十分な適格性を国籍に拘わらず有しているのであって、その能力を裁判所が活用しないことは、彼らの出自に対して国家が消極的評価を与えているとのメッセージを社会に送り差別を助長することになりかねず、人材の適切な配置を怠ることで、我が国の社会の潜在的可能性の発現に対する障害ともなる。
6 以上より、当会は、東京地裁に対し、憲法上の要請である法の支配や平等原則に抵触する疑いが濃い事務部門取扱いにとらわれることなく、当該会員らを司法委員となるべき者に選任すること、今後当会が司法委員となるべき者として推薦する会員につき国籍を問題とせずに選任手続を行うことを改めて強く求める。

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