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元財務事務次官のセクシュアル・ハラスメント報道等をめぐる対応についての会長声明

2018年05月11日

東京弁護士会 会長 安井 規雄

セクシュアル・ハラスメントは、日本国憲法に規定された両性の本質的平等にもとり、基本的人権を侵害する行為である。
かかる基本的理解のもと、各省各庁の長、事業主には、セクシュアル・ハラスメントを防止する義務、セクシュアル・ハラスメントが発生した場合に適切かつ迅速な対応をとる義務がある(人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)第4条)(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「雇用機会均等法」という)第11条)。セクシュアル・ハラスメント被害の申し出や告発等があった場合には真摯に対応し、関係者の人権、プライバシーに配慮して迅速に事実調査を行うこと、被害を申し出たことを理由に被害を申し出た者を不利益に取り扱わないことが重要である(人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について(平成10年11月13日職福―442))(雇用機会均等法第11条第2項、事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針、平成18年厚生労働省告示第615号(以下「指針」という)第3項)。こうした規程等の趣旨や、そもそもセクシュアル・ハラスメントが人権侵害であることに照らすなら、被害者が職員でなかったとしても、とるべき対応は基本的に変わるところはない。したがって、セクシュアル・ハラスメント被害の報道等がなされた際に、関係する省庁が、調査機関の中立性を具体的に担保しないまま、そこに被害者に名乗りでるよう求めることは、被害を申し出た者に圧力をかけることにもつながり、適切ではない。
また、ハラスメント被害を申し出たことや自らの権利を守るために行った録音行為等を非難したり、深夜に1対1の会食に出向いた女性側にも非があるというような、被害を申し出た者の人格を貶める言動は、セカンドハラスメントにあたりうる。このような言動が公然と行われるとすれば、ハラスメント被害の申し出をさらに萎縮させ、ひいてはセクシュアル・ハラスメントを助長することとなる。
さらに、セクシュアル・ハラスメント被害の発生が懸念されるのであれば、当該職種・職場には女性を配置しないこととすればよい、というような発言は、職場からセクシュアル・ハラスメントを根絶し、性別による差別的取り扱いをなくすという雇用機会均等法の基本理念に反するだけでなく、事業者がそのような対応をとるとすれば、性別による労働者の配置に差別的取り扱いを禁止した雇用機会均等法第6条第1項第1号に反し違法である。
2016年4月、女性活躍推進法が完全に施行され、内閣府においては「女性活躍推進のための重点方針2017」を定め、その中で、明確に「女性に対するあらゆる暴力の根絶」を掲げている。女性が働きやすい環境を整備すること、性犯罪・性暴力は当然のこと、セクシュアル・ハラスメントのない職場環境の整備は、女性活躍の当然の前提となるものであり、女性活躍推進と表裏一体をなすものである。
セクシュアル・ハラスメントは、深刻な被害を生じさせる人権侵害であり、現に女性が就労を継続する上で、大きな障壁となっていることに鑑みれば、今回の元財務事務次官によるセクシュアル・ハラスメントに関する被害の申し出やこれに端を発した報道をめぐる関係機関、関係者の対応、発言には、既に述べたような問題が随所に散見されるといわざるを得ない。
これを機に、全ての職場において、セクシュアル・ハラスメントの発生防止、相談体制の整備(被害申告に対する適切な対応の整備を含む)等を実効性のある適切なものとし、セクシュアル・ハラスメントを根絶すべきである。

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