東京弁護士会

新宿区によるデモ出発地として使用できる公園の基準見直しに関する会長声明

2018年07月23日

東京弁護士会 会長 安井 規雄

1 東京都新宿区が本年6月に行った、デモ出発地として使用できる公園の許可基準の見直し(本年8月1日から適用)は、デモ行進の自由に対する本質的に強度の制限となり、憲法第21条の保障する表現の自由に反する恐れが強いため、直ちに改めるよう求める。
2 従前の「住宅街に近接していないもの」という同区の基準によっても、使用できる公園は4か所に限られていたが、新基準では「学校、教育施設及び商店街に近接していないもの」という要件が追加される結果、デモ出発地として使用できる公園の基準に3つの公園が適合しなくなり、新宿中央公園1か所しか使用できなくなる。しかも、集合から30分以内に出発しなければならず、また、1日2件の使用しか認めないという条件も加えられている。
 デモ行進そのものは道路使用の問題であるが、デモ出発地として使用できる公園がなくなることは、その地域でのデモ行進そのものが認められなくなることを意味するから、この基準見直しは、デモ行進の自由そのものの全面的な規制である。
3 デモは動く集会ともいわれ、その自由は憲法第21条の表現の自由により保護される権利である。デモは特に表現手段の乏しい市民にとっては極めて重要な意見表明の手段であって、「特定の意見」を直接、通行人等の不特定多数人に広く伝え、その意見に対する共感を得て、時として批判や葛藤をも巻き起こすことにより、問題に対する考えを深めていく機会を社会にもたらすという重要な意義がある。その意味で、デモの自由には、周辺地域の人々に視覚や聴覚に訴えかけるという手段を伴うことが予定されているのであり、音量や時間等において配慮は必要だとしても、近隣に一定の負担が生じることは許容されるべきである。
4 新宿区側は、今回の基準見直しの理由として、当初、ヘイトスピーチ対策に重点をおいた説明をしていたが、その後、基準見直しの背景事情として、デモ件数が増加していること、これに伴って、公園周辺町会や商店会、地域住民から、頻発するデモによる周辺の交通制約や騒音により迷惑しているため、デモを制限して欲しい旨の要望を受けているとの説明も行われている(以上、本年6月28日付朝日新聞報道等による)。
 しかしながら、デモの増加については顕著な増加の実態はないし、デモ出発地として使用されることによる騒音や交通の支障が、デモ行進に一般的に伴う負担を超えるものか否かも具体的に示されていない。もとより「迷惑なので制限して欲しい要望がある」などという漠然とした理由による規制は許されないことである。
 また、基準見直しの理由として「ヘイトスピーチのデモにも使われている」ことを挙げておきながら、「他のデモとの区別が困難」であるとして、結局デモ出発地としての使用を一律に制限する基準に変えようとしているのであり、これでは、ヘイトデモ規制を口実にしたデモの一律禁止と見られかねない。
5 デモ行進の自由の重要性に照らせば、デモ一般については、当該公園をデモ出発地とすることによって人の生命・身体または財産が侵害される明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合でない限り使用を許すべきである。
 これに対し、ヘイトデモは、差別的行為であり、人種差別撤廃条約やヘイトスピーチ解消法の趣旨からも規制されるべきものである。もっとも、表現の自由との慎重な調整のために、ヘイト目的か否かの判断を適切に行うためのガイドラインを定めるなどした上で、第三者機関を設置して、1件ごとに慎重に許否を判断することが必要であり、また、権利の重要性からして、行政の内部基準ではなく、条例によって具体的な基準が定められるべきである。この点については、当会が本年6月に採択した、差別的行為の禁止を目的とした、人種差別撤廃モデル条例案、及び同モデル条例案に関する意見書は、ヘイトデモの公園使用規制に関し、見直し基準として活用されるにふさわしいものである。
6 よって、当会は、新宿区に対し、行政の内部基準の変更によって一律に公園のデモ出発地使用を制限しようとする上記の規制を撤回し、ヘイトデモ等の差別的目的による使用の規制については、当会モデル条例案も参考にして、デモの自由を尊重しつつ、議会の条例制定によることとするよう根本的な見直しを求める。

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