東京弁護士会

改正「東京都迷惑防止条例」の施行にあたり、 市民の言論・表現の自由の侵害にならないよう、厳格な運用と必要な改正を求める会長声明

2018年07月25日

東京弁護士会 会長 安井 規雄

1 2018(平成30)年3月29日、東京都議会は「公衆に著しく迷惑をかける暴力行為等の防止に関する条例(東京都迷惑防止条例)の一部を改正する条例」(以下、「本改正条例」という。)を決議し、7月1日より施行されている。本改正条例は、「盗撮行為の規制場所の拡大」「つきまとい行為等の禁止の行為類型の追加」等を内容とするもので、私人間におけるストーカー行為や嫌がらせの規制を強化しようという趣旨であると説明されている。
 しかしながら、規制目的が抽象的であり、規制対象があいまいである点において行政や警察による恣意的な解釈や運用により市民の言論・政治的活動の自由や報道機関の取材活動へ不当な規制が行われるおそれがあり、またそのことが市民運動や報道機関を委縮させるおそれがあるため、不当な規制が行われないよう厳格な解釈や運用を徹底されるべきであり、曖昧な規定については速やかに改正すべきである。
2 具体的には、今回の改正で第5条の2(つきまとい等の禁止)第1項に、新たに第1号「住居等の付近をみだりにうろつくこと」、同第2号「監視していると告げること」、同第3号「電子メール(SNS 含む)を送信すること」、同第6号「名誉を害する事項を告げること」、同第7号「性的羞恥心を害する事項を告げること」が付け加えられている点に関する問題である。
 まず「住居等の付近をみだりにうろつくこと」(第1号)については、「ねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的」以外に目的の限定がなく、報道機関が取材活動を目的として取材対象の住居等の付近で複数回待機していたことさえも、特定の政治家をおとしめる悪意の感情を充足する目的であるとして本条例に違反するとされるおそれがある。これでは、報道の自由が制限され、ひいては市民の知る権利が制限されてしまう。
 次に、「監視していると告げること」(第2号)についても、対象となる行為や目的が限定されていない。何が監視にあたるかがまずあいまいであり、市民によるオンブズ活動や、市民による行政機関に対する監視行動といった正当な目的の行為も本条例の「監視」とされるおそれがある。
 また、「電子メール(SNS 含む)を送信すること」(第4号)も対象となるが、これも同様に行為や目的が限定されていない。市民が国や自治体、企業に対する意見表明をすることも、相手が拒んでしまえば、規制の対象となるおそれがある。
 さらに、「名誉を害する事項を告げ、その知り得る状態に置くこと」(第6号)についても、方法の限定がなく、市民が政治家などを批判する内容のビラまきをしたり、消費者が企業に対して不買運動をしたりする行為やSNSで発信する行為も、反復すればこれにあたるとされてしまうおそれがある。
 よって、これらの新たな規制については、あくまで「個人が個人に対して私的な恨み・妬み・感情で害悪を加える目的やストーカー的目的」に限定する解釈や運用がなされるべきであり、規制目的を具体的に規定する改正が必要である。
3 なお、第6号の「名誉を害する事項を告げること」を刑法の名誉毀損罪と比較すると、「公然性」が要求されていないことから、名誉毀損罪と比べて処罰範囲がきわめて広範であるし、主観的な名誉感情まで含み、侮辱罪に当たる行為まで条例の処罰範囲としているように読める。この点、名誉毀損罪は、表現の自由との緊張関係があるため、刑法第230条の2で、名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であった場合に、真実性の証明による免責を認めている。これは、表現の自由と人の名誉権の保護との緊張関係の調整を図るために設けられた規定である。本条例は、このような表現の自由に対する配慮がない点で、表現の自由に対する重大な侵害となり得る。また、本条例は、法律によって禁止されていない行為まで禁止し処罰する危険性もあるため、憲法第94条の「法律の範囲内で条例を制定することができる。」という文言に反するとも考えられる。
4 このように、本条例は、市民の言論の自由、表現の自由、知る権利、報道の自由を侵害するなど憲法第21条に違反する危険性があり、また法律の範囲内で条例を制定できるとする憲法第94条にも違反するおそれがある。
 当会は、市民の言論の自由や政治的活動の自由を制限することは、民主主義の根幹を制限することになるため、本条例の厳格な運用と目的や行為を明確化する改正をすることを強く要望する。

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