東京弁護士会

大崎事件第三次再審請求棄却決定に抗議する会長声明

2019年07月03日

東京弁護士会 会長 篠塚 力

1979(昭和54)年に鹿児島県大崎町で男性の遺体が発見されたいわゆる大崎事件の第三次再審請求事件について、最高裁判所第一小法廷は、去る6月25日、再審開始を決定した鹿児島地方裁判所及び福岡高等裁判所宮崎支部の決定を取り消し、殺人等の罪で服役した原口アヤ子さん(以下「原口さん」という。)からの再審請求を棄却した(以下「本決定」という。)。 
しかし、この結論は極めて不当である。
大崎事件は、原口さんが元夫と義弟との計3名で共謀して被害者を殺害し、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件であるが、原口さんは逮捕時から一貫して無罪を主張していた。にもかかわらず1980(昭和55)年、鹿児島地裁は原口さんに対して懲役10年の有罪判決を下し、これが確定した。
しかし、判決において証拠とされた遺体の司法解剖に基づく鑑定結果は、「他殺ではないかと想像する」というあいまいなものにとどまり、殺人の客観証拠はなかったことから、検察官の立証は「共犯者」とされた元夫らの「自白」に頼ったものであった。しかも、第一次再審請求時に至って、その「自白」には変遷があったことが明らかとなり、また鑑定人が、死因を「他殺か事故死か分からない」と自身の見解を変更するなど、証拠が脆弱なものであった。
原口さんは、服役後の1995(平成7)年に再審請求を行い(第一次再審請求)、2002(平成14)年3月、鹿児島地裁は再審開始決定をした。しかし、検察官抗告により同決定が取り消され、第二次再審請求は地裁で棄却されていた。
2015(平成27)年に行った第三次再審請求において、弁護側は「転落事故による出血性ショックの可能性が高い」という法医学鑑定書を新規証拠として提出した。また、義弟の妻の目撃供述についても、供述心理学の専門家による鑑定によって信用性に疑問が呈された。
そして、鹿児島地裁は、検察官が40年間隠し続けた証拠を裁判長の訴訟指揮によって開示させるなど丁寧な審理の結果、2017(平成29)年6月28日、「殺人の共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できない」と結論づけた。
同一事件において二度の再審開始決定がなされたのは、いわゆる免田事件以来のことである。しかも、地裁及び高裁において、少なくともそれぞれの合議体の過半数の裁判官が確定判決に疑問を呈したのである。これらのこと自体が、原口さんを有罪とした確定判決には合理的な疑いが生じていることの証左と言うべきである。
第三次再審開始決定に対しても検察官が即時抗告を申し立てたが、福岡高裁宮崎支部は検察官の即時抗告を棄却して、再審開始決定を維持した。
ところが、最高裁第一小法廷は、検察官の特別抗告には法律に定められた抗告理由がないと判断したにもかかわらず、敢えて職権により地裁及び高裁の行った事実認定に踏み込んで、原決定及び原々決定を取り消した上、高裁に差し戻すことなく、自ら再審請求を棄却するという、異例と言うべき本決定を行った。
最高裁第一小法廷は、新規証拠として提出された法医学鑑定に対し、「科学的推論に基づく一つの仮説的見解を示すものとして尊重すべきである」と一定の評価を与えたにもかかわらず、「決定的な証明力は有しない」と断じた。一方で、共犯者とされた親族らの「自白」及び目撃供述については、その知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを認めながらも、その信用性は「相応に強固だ」と評価した。そして、地裁及び高裁の決定を取り消さなければ「著しく正義に反する」と結論づけたが、虚偽の「自白」等により冤罪を作り上げることこそ著しく正義に反する。
最高裁第一小法廷は、検察官の特別抗告に理由がないとしたのであるから、仮に、事実認定に疑問を呈するのであれば、再審開始決定自体は確定させた上で、事実認定の審理については再審公判の裁判所に委ねるべきであった。
再審制度は誤ってなされた確定判決を糾し冤罪から救済するための制度であり、再審開始決定の判断においても「『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用される」(刑集第29巻5号177頁)ことは、いわゆる白鳥事件において最高裁自身が確立し、以後、踏襲してきたルールである。
今回の決定は、最高裁がこの鉄則を自ら踏みにじり、人権擁護の最後の砦としての役割を果たすことを放棄したものと言わざるをえない。
よって、当会は、本決定に対して強く抗議する。

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