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ハンセン病家族訴訟判決と国の控訴断念を受けての会長声明

2019年07月12日

東京弁護士会 会長 篠塚 力

本年6月28日、熊本地方裁判所は、ハンセン病であった者の家族ら561名が原告となって国に対して国家賠償を求めた訴訟において、ハンセン病隔離政策が病歴者本人のみならず、その家族らに対しても違法な人権侵害であったことを認め、原告らに対して損害賠償を認める判決を言い渡した。
本判決は、らい予防法及びそれに基づく隔離政策が、病歴者の家族に対しても憲法第13条が保障する「社会内で平穏に生活する権利(人格権)」を侵害する違法なものであったとして、厚生大臣及び国会議員の責任を認めたのみならず、らい予防法廃止後においても、厚生及び厚生労働大臣、法務大臣、文部及び文部科学大臣に対し、家族に対する差別偏見を除去すべき義務に反した責任を認めた画期的判決である。
ハンセン病病歴者の家族らは、国による憲法違反の隔離政策によって、長年にわたり社会の中で激しい差別や偏見を受けてきた。中には、病歴者の家族であることを隠すために病歴者との交流を断った者や、結婚を断念した者もおり、長年にわたり、いわば人生そのものに対する被害を受けてきた。この現実を直視するならば、一刻も早く病歴者家族らの被害回復を図ることが必要である。
本判決に対し、安倍首相は「筆舌に尽くしがたい経験をした家族の苦労を、これ以上長引かせるわけにはいかない」として控訴断念を表明した。今後は、時効等の法的問題を超えて、本件訴訟の原告らだけでなく被害を受けてきた病歴者の家族ら全体に対して、国が名誉回復のために手を尽くし、また、損害賠償及び必要な経済的支援をするべきである。
さらに、差別偏見の除去や家族関係の回復のために、社会に対する啓発活動などもいっそう推進しなければならない。
当会としても、ハンセン病問題に対する法律家の責任を自覚し、この間、東京三弁護士会共同で、中学・高校への出張授業等の人権啓発活動に取り組んできたが、本判決を踏まえ、改めて、ハンセン病病歴者及びその家族らに対する被害回復や、社会に残る差別偏見を除去するための活動に取り組む決意である。

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