新年のご挨拶~一陽来復
2020年01月06日
東京弁護士会 会長 篠塚 力
1.一陽来復
厳寒へと向かう中、陽光の一瞬のきらめきに春の息吹を感じています。
わが国では、少子高齢化や国際化あるいはIT技術が急速に進む中で、非正規労働が広がって格差が拡大し、貧困が深刻化し、民主政治の在り方にも影響を与えています。高齢者、外国人や子どもあるいは女性への虐待や搾取・詐欺等の人権侵害が依然として続いています。
地球温暖化は進行し、超大型の台風や豪雨被害が世界中で広がっています。さらに、世界の様々な地域で、核の脅威とともに地域紛争の脅威が、近年益々増大しています。
同時に、こうした時代の困難や理不尽に対し、日本中で、そして世界中で、様々な人々が粘り強く立ち向かっています。わたしたちは、こうした動きの中に次の時代への変化の息吹を感じ取り、共鳴し共同して、すべての人々が平和で安全そして安心して生活できる社会の実現に貢献したいと決意を新たにしています。
2.災害対応
地震、豪雨等の災害が頻発しています。東日本も昨年10月の台風15号及び19号による大きな被害を受けました。当会は、直ちに対策本部を設置して法律相談の対応に当たって参りました。日弁連や被災地の弁護士会そして法テラスと連携し、被災された方を対象に無料の電話相談を実施して参りました。
さらに、被災された方の二重ローン解消のため、国の費用負担の下、弁護士も登録支援専門家として被災減免ローンの手続支援を行っています。
また、被災により紛争が生じた場合に、迅速かつ円満に話し合いによる解決を促進するために、当会においても、災害時ADR(裁判に依らない紛争解決)の手続を比較的低額の費用で利用できるように運用を開始しました(電話番号03-3581-0031)。
3.子どもの権利擁護~少年法適用年齢の引下げ反対
子どもの権利条約は、昨年、国連総会での採択から30年を迎えました。同条約は、子どもたち一人ひとりが、差別されないこと、最善の利益が考慮されること、生命・生存・発達が保障されること、意見を尊重されることを4つの柱としています。
子ども自身が、弁護士に対して公費で、自分の代理人としての活動を依頼できる「子どもの代理人」制度の実現に向けて、取り組んでいきます。また、近時、児童相談所や学校で弁護士の活動が期待されるようになってきており、その期待に応える対応をしたいと考えております。現在、法制審議会で審議されている少年法適用年齢の引下げには、年齢引下げを正当化する理由が認められません。多くの団体、個人と連携して、年齢引下げの理由がないことを訴えて、反対運動を継続して参ります。
4.外国人の人権保障~入管行政の抜本的改革を求める
入管収容施設において被収容者の生命・健康が著しく軽んじられ、死亡者まで出るという異常な事態が長年続いています。
当会は、昨年4月以降、4度にわたり、会長声明を発出し、収容期間に上限を設ける等の入管行政の抜本的改革を求めています。引き続き、入管収容施設に対し、被収容者の生命・健康を擁護し、外部医療機関の受診も含めて適時に適切な医療を提供することを求めるとともに、仮放免の適切な運用を求めて参ります。
5.「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ナガサキ」
当会は、日本弁護士連合会と共に、これまで繰り返し核兵器の廃絶を訴えてきました。
ようやく2017年に、核兵器禁止条約が世界122の国と地域の賛成により採択されましたが、わが国は棄権し、いまだに条約に参加していません。唯一の戦争被爆国であるわが国が核兵器禁止条約に賛成しないことは、遺憾です。今後、核の傘に頼ることなく、日本を含め各国の外交的努力により、紛争の平和的解決がなされることを願ってやみません。
私たちも「ノーモア・ヒロシマ」「ノーモア・ナガサキ」の叫びを胸に、永久に戦争を放棄することを定めた憲法9条を護り、核兵器の脅威を感じる必要がない社会を作るよう努力して参ります。
6.死刑執行停止・廃止の議論の深化
当会は、昨年も死刑執行に抗議する会長声明を発出しました。死刑の廃止または執行停止は、すでに国際的潮流となっています。わが国は、国連の国際人権(自由権)規約委員会等から、繰り返し、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討すべきであるとの勧告を受けていています。OECD加盟国の中で死刑制度を存置し、国家として統一して執行しているのは日本だけです。
死刑は、「国家が人の生命を奪うことが許されるのか」という根源的な問題を内包しています。死刑執行後に冤罪あるいは責任阻却事由が判明しても、取り返しがつきません。もとより、被害者・遺族の多くが、加害者に極刑を望む心情を持つことを深く理解しなければなりません。私たちは、会内において、被害者・遺族の心情、困難に配慮しつつ、改めて死刑執行停止の実現、そして死刑の廃止に向けて議論を深化させていきます。