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知的財産権関係事件に係る弁護士費用の敗訴者負担制度に関する会長声明

2020年02月19日

東京弁護士会 会長 篠塚 力

民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議は、内閣官房のホームページ内において、取りまとめ骨子(令和2年1月20日)を公表している。(資料1:内閣官房ウェブサイトへリンク)
同骨子には「知的財産権関係事件に関し,勝訴当事者の弁護士費用を敗訴当事者に負担させることのメリットやニーズ,あい路等を踏まえ,引き続き検討を進める。」と記載されている(第3知財司法 5弁護士費用に関する敗訴者負担の導入についての段落参照)。
日本弁護士連合会は、2000(平成12)年10月18日、弁護士報酬の敗訴者負担制度に関する決議にて、「当連合会は、司法制度改革審議会に対し、弁護士報酬の一般的な敗訴者負担制度の導入を提言することのないよう強く要望する。」と述べている。(資料2:日本弁護士連合会ウェブサイトへリンク)
ところが、上述の取りまとめ骨子によれば、上述の日弁連の決議と異なり、知的財産権関係事件に関して一般的な敗訴者負担制度について検討が進められるおそれがあり、当会として危惧を表明せざるを得ない。
ここにおいて一般的な敗訴者負担制度とは双方向的な敗訴者負担制度を含意しており、たとえ当初は知的財産権関係事件に限定する趣旨であっても、双方向的な敗訴者負担制度を導入することは、上述の日弁連の決議に反することになる。日弁連の決議の趣旨は、経済力のない市民や企業を裁判から遠ざけてはならないこと、訴訟提起を躊躇・萎縮させてはならないこと、政策形成訴訟を窒息させてはならないこと、意に反する和解を受け入れさせてはならないことなどにある。知的財産は無体物であり、相手方や第三者が所持する証拠の開示制度が不十分なままでは権利者が侵害行為の存在や逸失利益などの立証に失敗するおそれが大きく、そのため、知的財産権を有する経済力のない権利者をいっそう裁判から遠ざけ、訴訟提起を躊躇・萎縮させ、政策形成訴訟(たとえば、知財分野では均等論や権利無効の抗弁などが認められてきた経緯など)を窒息させ、意に反する和解(たとえば、低廉なライセンス料の甘受)を受け入れさせることになってしまうからである。
よって、当会は、知的財産権関係事件に関し弁護士費用の一般的(双方向的)な敗訴者負担制度の導入をすることのないよう強く要望するものである。

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