国際的な人権侵害行為と弁護士の役割に関する会長談話
2021年04月30日
東京弁護士会 会長 矢吹 公敏
本年3月に京都で開催された国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)で、1990年第8回国連犯罪防止刑事司法会議で採択された国連「弁護士の役割に関する基本原則」(以下「基本原則」という。)が取り上げられました。基本原則では、「政府は、弁護士が、(a)脅迫、妨害、嫌がらせ、あるいは不適切な干渉を受けることなく、その専門的職務を全て果たしうること、(b)自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談しうること、(c)承認された職業上の責務、基準及び倫理に従ってなされた行為に対して起訴あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないこと、を確保するものとする。」(第16原則)、「弁護士が、その職責を果たしたことにより、その安全が脅かされるときには、弁護士は、当局により十分に保護されるものとする。」(第17原則)とされています。それは、弁護士が、「依頼者の権利を保護し、司法の目標を促進するにあたっては、国内法及び国際法で承認された人権及び基本的自由を支持するよう努めるとともに、いかなるときでも、法律及び法曹の確立された基準と倫理に則り、自由に、かつ、勤勉に行動するものとする。」(第14原則)という責務を負っているからに他なりません。
また、基本原則は、「政府は、人種、皮膚の色、民族的出自、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生、経済的その他の地位に基づく差別など、いかなる差別もなく、自国内で、裁判管轄に服する全ての人に対し、実効的で平等な弁護士へのアクセスのために、効率的な手続と適切な応答をなす仕組みが提供されるよう確保するものとする。」(第2原則)と規定しています。
以上のように、基本原則は、弁護士が市民の基本的人権を守る役割を負っていることを明らかにし、その職責を果たすために政府もその原則を守るべきであると述べているのです。わが国の弁護士も、この職責を自覚し、市民の平和的生存権やそのほかの基本的人権の護り手としての役割を真摯に自覚し、活動していかなければなりません。
私どもの活動は国内だけではなく、国連が基本原則を採択したように、国外で基本的人権を侵害されている人々へも差し向ける必要があります。世界では、多くの市民がその人権を脅かされています。ミャンマーでは、国軍による平和的な抗議デモへの弾圧に伴い多数の市民が死傷しています。そして、その市民を助けようとする弁護士が迫害にあったり、行方不明になっていると報道されています。また、香港においても国家安全維持法違反の疑いで多くの市民が不当に逮捕され、人権派弁護士も正当な理由なく拘束されたことが報道されています。
東京弁護士会は、こうした海外で起きている人権侵害行為に対しても、私たち日本の弁護士に何ができるのかを考え、基本原則の精神に従い行動してまいります。
*文中の訳は日本弁護士連合会によるものである。
印刷用PDFはこちら(PDF:136KB)