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新型コロナウイルス禍を理由とした改憲による緊急事態条項の創設に反対する会長声明

2022年04月11日

東京弁護士会 会長 伊井 和彦

報道によれば、自民、公明両党は、2022年1月25日に与党幹事懇談会を開き、日本維新の会、国民民主党、無所属議員会派「有志の会」も参加して、2022年度予算案の衆議院審議中であっても、定例日ごとに憲法審査会を開いて議論を行うべきだとの認識で一致し、与党筆頭幹事が野党筆頭幹事に申し入れを行ったとのことであり、議論のテーマとしては新型コロナウイルス禍を受けた緊急事態対応が有力視されるとのことである。
そして、同年3月17日に開催された衆議院憲法審査会では、自民党が大規模災害などの緊急事態に国会の機能を維持するため、議員の任期延長を議論すべきだと主張したとのことである。
緊急事態条項とは、大規模災害や外国からの侵攻に対処するために、権力分立を一時停止して政府に権限を集中させ、国民の基本的人権に特殊な制限を加えることを眼目とするものであり、非常事態における例外的措置とはいえ、立憲主義による人権尊重という憲法の基本理念とは相反する危険な制度である。しかも、往々にして国家権力により緊急事態条項が濫用され、かつ一時的なものにとどまらない事態となることは、歴史が示しているところである。当会は、2016年11月24日付「日本国憲法を改正し国家緊急権規定を創設することに反対する会長声明」を発出し、大規模災害等への対応を理由とした国家緊急権(緊急事態条項)創設について、現行法及び個別具体的な立法によって十分に対応可能であるから不必要である旨を指摘した。
このことは、新型コロナウイルス禍においても同様であり、憲法に緊急事態条項がないことが政府による新型コロナウイルス禍への対応の障害となったなどという事実は何一つ指摘されていない。
新型コロナウイルス禍において必要なことは、憲法の個人主義、幸福追求権(第13条)、生存権(第25条)、財産権の保障(第29条)を具体化して、防疫体制、公衆衛生、医療体制などを整備・充実させるとともに、国民一人一人の実情に見合った適切な補償を行うための立法、施策を行うことであって、憲法改正によって緊急事態条項を創設することではない。
立憲主義を一時的であっても機能停止させる緊急事態条項は、重大な人権侵害の危険性が極めて高く、国家権力による濫用のおそれも強いことから、新型コロナウイルス禍に対応する手段として有害無益である。
むしろ憲法審査会は、憲法改正手続法に昨年加えられた附則第4条に基づき3年を目途に改正等の措置を講ずる必要のある「国民投票運動等のための広告放送及びインターネット等を利用する方法による有料広告の制限」「国民投票運動等の資金に係る規制」「国民投票に関するインターネット等の適正な利用の確保を図るための方策」の議論を進めなければならない。当会はこのことを2021年5月20日付「憲法改正手続法の改正法に反対する会長声明」で指摘しているところである。
以上のとおり、当会は、新型コロナウイルス禍を理由とした改憲による緊急事態条項の創設に反対する。

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