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大崎事件第四次再審請求審の再審請求棄却決定に対する会長声明

2022年06月30日

東京弁護士会 会長 伊井 和彦

2022年6月22日、鹿児島地方裁判所刑事部(中田幹人裁判長)は、いわゆる大崎事件の第四次再審請求審において、再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という)。
本件は、1979年10月、原口アヤ子さんが、元夫、義弟と3名で共謀して被害者を殺害し、その遺体を義弟の息子も加えた4名で遺棄したとされる事件である。原口アヤ子さんの逮捕時からの一貫した無罪主張にもかかわらず、確定審では、「共犯者」とされた元夫、義弟、義弟の息子の3名の「自白」、その「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しない法医学鑑定、「共犯者」の親族の供述等を主な証拠として、原口アヤ子さんに対し、懲役10年の有罪判決が宣告された。
第一次再審請求審において、2002年3月26日、鹿児島地裁が再審開始を決定したが、即時抗告審である福岡高裁宮崎支部は同決定を取り消した。第三次再審請求審において、2017年6月28日、鹿児島地裁が2度目となる再審開始を決定し、2018年3月12日、福岡高裁宮崎支部は、検察官の即時抗告を棄却して、再審開始の結論を維持した。ところが、2019年6月25日、最高裁第一小法廷は、検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず、請求審決定、即時抗告審決定をいずれも取り消し、再審請求を棄却したのである。
第四次再審請求において、弁護団は、被害者の死亡時期に関する救命救急医の医学鑑定等の新証拠を提出したが、本決定は、新証拠に一定の証明力を認めながら、その証明力は限定的であり、「客観的状況からの事実の推認は左右されない」として、刑訴法第435条第6号の明白性を認めなかった。
しかし、本決定は、新証拠の明白性判断の前提となる確定判決の証拠構造分析、旧証拠の全面的再評価を適切に行っていない。本決定がいう「客観的状況からの事実の推認」は上記最高裁決定をそのまま追認したものにすぎないが、当会の2019年7月3日の「大崎事件第三次再審請求棄却決定に抗議する会長声明」で指摘したように、そもそも上記最高裁決定が誤っているものである。
また、新証拠の明白性判断においては、新旧全証拠を総合評価しなければならないが、本決定は新旧全証拠の総合評価を行っていない。本決定は、新証拠の証明力は限定的であるとした上で、旧証拠による「客観的状況からの事実の推認」に影響を及ぼさないとして、新証拠の明白性を否定しているだけであり、実質的には新証拠の孤立評価であり、新旧全証拠の総合評価とは到底いいえない。
そもそも、本件については、第一次再審請求審決定、第三次再審請求審決定、同即時抗告審決定と3回にもわたり再審開始に向けた決定が出されており、確定判決の有罪認定は極めて脆弱なものであるが、本決定はこのことを全く考慮していない。
以上からすれば、本決定は、「疑わしいときは被告人の利益に」の刑事裁判の鉄則に反しており、白鳥・財田川決定にも違反するものであり、到底容認できない。
原口アヤ子さんは現在95歳という高齢であり、1日も早く再審を開始し、再審公判が開かれなければならない。日弁連は2013年から本件を支援しており、当会としてもこれを支持するものである。
また、当会は、再審請求手続における全面的な証拠開示や、再審開始決定に対する検察官による不服申立の禁止等、えん罪被害者を速やかに救済するための再審法改正に向けて、努力していく所存である。

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