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犯罪被害者および遺族の名誉、プライバシーに十分配慮した報道を求める会長声明

2022年07月26日

東京弁護士会 会長 伊井 和彦

本年6月上旬、東京在住の20代女性が茨城県の林道脇で亡くなった状態で発見された事件について、一部のメディアにより被害者の実名や顔写真の報道がなされた。実名および顔写真の報道を控えるよう被害者の遺族から要望が出された後も、これらの報道は続き、さらには、被害者および遺族のセンシティブな情報まで報じられ、インターネット上に広く流布されるに至っている。
被害者は突然犯罪に巻き込まれ、尊い生命を失い、被害者の遺族はかけがえのない家族を失った悲しみに深く傷ついている。それにもかかわらず、上記のような報道がなされることは、被害者の遺族を二重三重に苦しめるものであることは想像に難くない。報道機関は、真に当該情報を報道する必要があるのか、慎重に考慮し、検討すべきである。
一般に報道の自由は国民の知る権利に資するものとして憲法上保障され、また、被害者に関する報道についても事実を検証する機会を確保する必要性など、一定の理由があるものと考えられる。しかしながら、報道の自由も無限定に許容されるものではなく、被害者および遺族の名誉、プライバシー等との間で適切に比較衡量されなければならない。
とりわけ、インターネットが普及し、誰もが個人情報、詮索的な情報、センシティブな情報等を容易に発信できる現代社会において、ひとたび被害者および遺族の個人情報等が報道されれば、インターネット上に広く流布され、半永久的に掲載され、当該情報をコントロールできない事態を引き起こすことになる。このことを踏まえれば、被害者および遺族の個人情報等の報道は、より慎重に検討される必要がある。
これらの点については、当会が、2017年12月13日の「犯罪被害者の実名報道に対する会長声明」で指摘したところである。
本件においては、被害者の実名や顔写真の報道が被害者の遺族の意に反していたことに加え、被害者および遺族に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じかねないセンシティブな情報も併せて報道されており、これらの情報が世間に流布されることによって、被害者の遺族が多大な被害を受けることは容易に予想されるものである。これらの情報を報道することによって得られる利益が、被害者および遺族の名誉、プライバシーを上回るものとは考え難い。
犯罪被害者等基本法は、「国民の責務」として、「国民は、犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することのないよう十分配慮する」ことを定めている(同法第6条)。報道機関も例外ではなく、犯罪被害者および遺族に十分配慮した報道がなされなければならない。
当会は、本件の被害者および遺族に慎んで哀悼の意を表するとともに、報道機関に対しては、犯罪被害者および遺族の名誉、プライバシーに十分配慮した報道を行うよう、強く求めるものである。

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