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オンライン接見の法制度化を求める会長声明

2023年07月10日

東京弁護士会 会長 松田 純一

1 現在、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「刑事IT化部会」という。)において、刑事手続における情報通信技術の活用について、多岐にわたる議論が行われている。その中で、弁護人と被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法第39条第1項の接見として位置付けることが議論されている。

2 憲法は、何人も「直ちに」弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されないと規定するとともに(第34条)、刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができると規定して(第37条第3項)、弁護人の援助を受ける権利を保障している。
特に逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である(最判平成12年6月13日民集54巻5号1635頁)。
しかし、逮捕段階での公的弁護制度が保障されていない現在、被逮捕者の多くは、弁護人からの助言を受けられていない段階で、捜査機関から供述を迫られている。弁護人が留置施設・刑事施設を訪問するために長時間を費やさざるを得ない状況がある場合には、そのことが「直ちに」弁護人からの助言を受けることの妨げとなる。また、公判準備及び公判の段階でも、勾留されている被告人は、弁護人が刑事施設を訪問するために長時間を費やさざるを得ない場合には、接見の時間・回数を確保することの妨げとなり、大きな防御上の不利益を被ることになる。
こうした被疑者・被告人の不利益は、収容施設が弁護人の法律事務所から遠く離れている場合に、特に深刻なものとなっている。東京においても、留置施設・刑事施設と弁護人の法律事務所の位置関係によっては、接見に片道1時間以上を要することが少なくなく、とりわけ、当会多摩支部の管轄区域の事件については、片道2時間以上をかけて遠方の留置施設まで接見に赴くことになることも多い。また当会会員が、東京都島嶼部の留置施設所在の被疑者・被告人の国選弁護人に選任された場合や、刑事上告審の国選弁護人に選任された場合には、片道数時間以上を要したり、往復には宿泊を要したりするような遠方の留置施設・刑事施設に接見に赴く必要が生じる。これらの場合、弁護人が接見の時間・回数を確保することが困難であるということ自体が、防御上の不利益につながりかねない。
また、憲法は、被告人に対し、迅速な裁判を受ける権利を保障しているところ(第37条)、弁護人が収容施設を訪問するために長時間を費やさざるを得ないことによって、接見の時間・回数を確保することが妨げられ、被告人との打ち合わせに時間を要することになるため、公判前整理手続、公判手続の遅延を招き、迅速な裁判の実現を妨げる事態が生じている。

3 このような不利益を解消するため、被疑者・被告人と弁護人等とのオンライン接見をできるようにすることは、弁護人の援助を受ける権利を実質的に保障し、迅速な裁判を実現するという観点から、きわめて重要な意味を持つ。
現在でも、アクセスポイント方式による電話連絡制度や電話による外部交通制度が運用されているが、これらは「立会人なくして接見」できるという秘密性が保障されていないという重大な問題がある。
オンライン接見は、「立会人なくして接見」することができるとしている刑事訴訟法第39条第1項に規定する接見交通権の行使に含まれるものであり、そのようなオンライン接見を新たに設けることが必要である。逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防止するについては、これを防ぐための必要な措置を規定することによって対処すべきである(刑事訴訟法第39条第2項)。
オンライン接見の新設・導入には、人的・物的基盤の整備が必要となるが、新たな設備の整備等に伴ってそのような必要が生じるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。捜査機関の権限を拡充するためだけでなく、被疑者・被告人の権利保障を充実させるためにも、人的・物的基盤の整備が検討されてしかるべきである。刑事IT化部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等を全国一律・一斉にオンライン化することが具体的に検討されているが、そのようなことが実現可能である以上は、秘密性が保障されたオンライン接見を行うことができるような人的・物的基盤の整備を、少なくとも段階的に実施することも、十分、可能なはずである。
2015年に改定された「国連被拘禁者処遇最低基準規則」は、「国際連合が適切なものとして承認する被拘禁者処遇の最低条件」(序則2第1項)を示すものであるが、同規則においても、「被拘禁者は、適用される国内法にしたがい、あらゆる法律問題について、遅滞や妨害又は検閲なしに、自ら選んだ法的助言者あるいは法律扶助提供者による訪問を受け、連絡を取り、相談するための十分な機会、時間及び便益を提供されるものとする」(規則120第1項、規則61第1項)とされているように、弁護人の援助を受ける権利を実質的に保障するための必要な設備を提供することは、国の責務である。当会においては、多摩支部・東京都島嶼部所在の留置施設、高等裁判所所在地の留置施設において秘密性が保障されたオンライン接見を実現するための人的・物的基盤の整備がなされることがきわめて重要な課題であるが、仮に長期間を要するとしても、それ以外の留置施設・刑事施設においても、秘密性が保障されたオンライン接見を実現するための人的・物的基盤の整備が進められなければならない。国がこの責務を果たすために、相当の長期間を要することが見込まれるのだとしても、そのことを理由として、秘密性が保障された権利としてのオンライン接見の実現を見送るべきであるなどという議論は本末転倒である。秘密性が保障された権利としてのオンライン接見の実現を前提として、そのための人的・物的基盤の整備のために必要な期間等が議論されなければならない。

4 以上の次第で、当会は、オンライン接見について、これを権利として規定した上で、速やかに、逃亡や罪証隠滅の防止、戒護への支障の防止を十分に図り得る技術・物的設備・体制を確保し、必要な物的設備や人的体制が整った施設を、特にそのような施設の必要性の高い地域について設けた上で、これを拡大して、全国にあまねく設けることを求める。

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