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最高裁大法廷判決を受けて、旧優生保護法による被害の全面的回復を求める会長声明

2024年07月03日

東京弁護士会 会長 上田 智司

本年7月3日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟5件の上告審において、除斥期間の適用を制限し、被害者らによる賠償請求の道を開く判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。

旧優生保護法に基づいて強制不妊手術を受けさせられた被害者らは、国に賠償を求めて全国で提訴しており、各地の裁判所において、「被害者らの損害賠償請求権が改正前民法724条後段の除斥期間の経過により消滅したか」につき判断が分かれていた。本判決は、この点について最高裁判所として初めて統一的な見解を示したものである。

本判決は、旧優生保護法や同法に基づく強制不妊手術の実施が憲法に違反することを明示し、同法により「不良」であるとの烙印を押され、社会的な差別・偏見に晒されてきた被害者らの苦しみと向き合い、除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反するとして、除斥期間の適用を制限したという点において、画期的な判決である。最高裁判所が、人権の砦たる司法府の最終審として、その役割を全うしたものであり、高く評価されるべきである。

加えて、大法廷での審理及び判決にあたり、最高裁判所が、障害のある訴訟当事者及び傍聴者に向けた様々な配慮を提供したことも注目に値する。判決期日では、初めて傍聴者向けの手話通訳を公費で配置することとなったものの、当事者向けの手話通訳等の手配が公費で行われないことなどの課題も残されており、引き続き、民事訴訟手続における障害のある訴訟当事者の社会的障壁除去のための手話通訳等の費用は国の負担とするよう障害者権利条約13条に基づく手続上の配慮及び合理的配慮の提供が求められるところである。

全国に2万5000人以上いると考えられる被害者のうち、訴訟提起に至った被害者はわずか39名であり、そのうち6名が訴訟係属中に亡くなった。旧優生保護法下で行われた強制的な不妊手術に関しては、2019年4月24日に「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」が成立したが、同法に基づく一時金の申請件数は2024年5月5日現在、わずか1326人に過ぎない。被害者らは皆、高齢であり、1日も早い救済が求められる。

最高裁大法廷判決を受けて、国は、旧優生保護法の被害について真摯に反省し、被害者らに対して心から深く謝罪をすると共に、一人でも多くの被害者についてその被害の早期回復が図られるよう、全面的解決を図るべきである。当会は引き続き、被害者らの真の被害回復の実現に向けて、真摯に取り組んでいく所存である。

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