国際女性デー(International Women's Day)にあたり、今こそ選択的夫婦別姓制度の法制化を求める会長声明
2025年03月07日
東京弁護士会 会長 上田 智司
明日3月8日は、1977年に国連総会で議決された国際女性デー(International Women's Day)です。我が国も1985年、女性に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とする女性差別撤廃条約(以下「条約」といいます)を批准し、国連決議の理念にそった施策を行うことを約束しています。
しかしながら、去る2024年10月29日、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は日本政府に対し、条約の実施状況に関する締約国に対する審査の総括所見において、女性が婚姻後も旧姓を保持すべく夫婦の姓の選択に関する法律を改正する(12項(a))よう、2003年、2009年、2016年に続き、実に4回目となる勧告を行いました。また、前回同様、勧告を実施するために採った措置に関する情報を2年以内に書面で報告するよう日本政府に求めました(58項)。
現状、民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と夫婦同姓を義務付けており、婚姻後も夫婦が各自、婚姻前の姓を称することは認められていません。しかしながら、氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の重要な一内容を構成する」(1988年2月16日最高裁判決)ことから、「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として、日本国憲法第13条によって保障されています。
また、2021年6月23日の最高裁決定は、「民法750条の規定が憲法24条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところ」としつつも、「夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題」については「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」として、立法府である国会での審議に委ねており、上記によれば立法府による速やかな是正が期待されるところです。
この点、当会では、1989年1月18日に「選択的夫婦別氏制採用に関する意見書」を発出して以来、36年間にもわたり選択的夫婦別姓制度の導入を求めてきました。また、1996年2月26日、法制審議会が「民法の一部を改正する法律案要綱」を総会で決定し、選択的夫婦別氏制度の導入を答申したものの、それから既に29年もの月日が経過しています。
最近の社会情勢に目を向ければ、婚姻の際、夫婦のいずれか一方が改姓を強いられる現行制度の下で、実際には新たに婚姻する夫婦の約95%において女性が改姓しており(2021年厚生労働省人口動態調査)、未だ家父長的な家族観や婚姻観、夫は外で働き妻は家を守るという固定的な性別役割分担意識等が無言の圧力として働く結果、事実上、多くの女性が改姓を強制されていると考えられます。近時、職場での「旧姓の通称使用の拡大」は進められてきたものの、脱税やマネーロンダリング防止の観点から、所謂「ダブルネーム」の使用を禁ずる世界的傾向もあり、金融機関との取引、海外出張、そして登記など、本人確認が厳格に行われる場面では通称使用には限界があること、また、改姓により業績や人脈などのキャリアが分断され女性の社会的活躍が阻まれること、婚姻や離婚というプライバシーの暴露を逐一余儀なくされることなど、婚姻による改姓及び旧姓の通称使用による様々な不都合が指摘されており、通称使用では、これらの問題の根本的解決は不可能であることから、経済団体からも選択的夫婦別姓制度の導入を強く求める声があがっています。
当会は、上記を踏まえ、今こそ改めて国に対し、夫婦同姓を義務付ける民法第750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を法制化するよう求めます。
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