刑事再審手続に関する法制審答申に反対し、 議員立法による再審法改正の実現を求める会長声明
2026年02月12日
東京弁護士会 会長 鈴木 善和
法制審議会は、本日(本年2月12日)開催の同審議会総会において、再審法改正部会が去る2月2日に反対3を含む多数決で取りまとめた「刑事再審手続に関する要綱(骨子)」(以下「要綱(骨子)」という。)を採択し、法務大臣に答申した。しかし、本日の法制審総会における採択は、反対4、棄権1を含むものであって、法制審総会としては異例のものであった。このことは、要綱(骨子)の内容が、えん罪被害者の救済を迅速かつ容易にするという再審法改正の目的に沿ったものではなく、かえって今まで以上に救済を困難にしかねない内容を含んでいることを示している。その主な問題点は以下のとおりである。
第1に、要綱(骨子)は、「再審の請求についての調査手続」を新たに設け、「審判開始決定」がなされない限り、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求が棄却されることになる。この規定により、再審請求人が無罪につながる証拠の開示を受けられないまま、書面審査のみで再審請求が速やかに棄却されるおそれがある。また、財田川事件は獄中から裁判所に手紙が送られたものであったが、この規定では救済されないことになる。
第2に、要綱(骨子)は、証拠開示について、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象を、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」について、関連性、必要性、弊害の程度等を考慮し、相当と認めるものに限定している。この規定では、関連性、必要性、相当性を弁護人が具体的に主張、疎明しない限り、証拠開示が認められないおそれがある。また、裁判所が証拠の提出を命じない限り、再審請求人と弁護人は直接証拠にアクセスできないことになる。えん罪被害者を救済するためには、およそ再審請求理由と関連性がないものを除き、証拠は原則として開示されなければならない。
第3に、要綱(骨子)は、開示証拠の目的外使用禁止について定めている。開示された証拠を適正に保管しなければならないことは言うまでもない。しかし、新証拠の獲得のために開示証拠を支援者に交付すること等も目的外使用にあたるとの懸念があり、委縮効果は非常に大きいものがある。
第4に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立を禁止(廃止)していない。再審開始決定に対する検察官の不服申立により、えん罪被害者の救済が著しく阻害されていることは、近年の袴田事件、福井事件の例からも明らかである。福井事件では、検察官は証拠を隠したまま不服申立を行っているのであり、「公益の代表者」としてあるまじき対応である。ドイツでは1964年から再審開始決定に対する不服申立を禁止しており、理論上も実際上も問題は生じていない。検察官は、再審開始決定が誤りであると考えるのであれば、再審公判で有罪の主張をすればいいのである。
第5に、要綱(骨子)は、期日指定に関する規定を設けていない。再審請求手続において、期日指定の規定がないことが審理の停滞による手続の長期化を招く原因となっている。迅速、円滑な審理のために、期日指定の規定を設ける必要性が高いことは明らかである。また、証人尋問、鑑定や検証、意見陳述等の重要な手続は、公開の法廷で行うべきである。
第6に、要綱(骨子)は、再審開始決定に関与した裁判官を再審公判から除斥するとしている。再審請求審と再審公判は一連の手続であり、同一の裁判官が担当することは当然のことである。日本と同様の構造を採用しているドイツや台湾でも、そのように運用されている。日本でも、同一の裁判官が担当することに問題があるという指摘はこれまで全くなされていなかった。検察官は、再審開始決定に対して何度も不服申立を行い、再審公判でも一から有罪立証が可能ということになりかねない。
再審法改正に関しては、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「議連法案」という。)を取りまとめている。議連法案は、再審制度によってえん罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする観点から策定されたものであって、えん罪被害者の迅速かつ容易な救済を指向するものである。また、その内容を見ても、再審請求手続における検察官保管証拠等(送致書類等目録を含む。)の開示を幅広く認めるとともに、再審開始決定に対する検察官の不服申立を全面的に禁止(廃止)している点などは、法制審が答申した要綱(骨子)よりも優れており、高く評価できるものである。
よって、当会は、上記のような問題点を含む本日の法制審答申に反対するとともに、再審法改正の中核をなす部分については、議員立法により議連法案のとおり速やかに成立させることを求める。
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