菊池事件再審請求棄却決定に強く抗議する会長声明
2026年02月17日
東京弁護士会 会長 鈴木 善和
2026年1月28日、熊本地方裁判所は、いわゆる「菊池事件」について、再審請求を棄却する決定(以下「本決定」という。)をした。
菊池事件とは、1952年7月に熊本県で発生した殺人事件について、無実を訴える被告人に対し、死刑判決が言い渡され(その後最高裁判所で確定。以下「確定判決」という。また、確定判決にいたる裁判手続を「確定審」という。)、確定後も被告人が再審を求める中で1962年9月に死刑が執行された事件である。ハンセン病とされていた被告人の刑事裁判は、ハンセン病に対する差別と偏見から、菊池恵楓園及び菊池医療刑務所内のハンセン病隔離法廷(特別法廷)で行われた。ハンセン病に対する差別と偏見は根強く、被告人の遺族が、被告人の遺志を受け継ぎ再審請求を行うことができたのも死刑執行から60年近く経った2021年4月のことであった。その再審請求に対してなされたのが本決定である。
本件再審請求に先立つ菊池事件国賠事件の熊本地方裁判所判決(以下「菊池国賠判決」という。)は、特別法廷で行われた確定審は憲法第14条第1項の平等原則に違反し、ハンセン病に対する偏見・差別に基づき本件被告人の人格権を侵害したものとして憲法第13条にも違反し、さらに裁判公開原則を定めた憲法第37条第1項及び第82条第1項に違反する疑いがあるとした(その後確定)。
ところが、本決定は、上記菊池国賠判決と同様に、確定審の特別法廷を開廷場所に指定した手続は憲法第13条及び第14条第1項に違反し、その審理は裁判の公開原則を定めた憲法第37条第1項及び第82条第1項に違反する疑いがあるとする一方で、憲法に適合した公開法廷で審理したとしても「確定判決の証拠関係等に変動はないから、これらの憲法違反が確定判決の事実認定に係る重大な事実誤認を来すものとは認められない」として、憲法違反を理由とする再審開始を認めなかった。
もとより、公平中立でない裁判は、裁判とはいえない。偏見と差別に満ちた裁判は裁判の名に値しない。憲法第31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めている。憲法違反の裁判の名に値しない手続で生命を奪うことが、憲法第31条に違反する不正義であることは明らかであって、その不正義を匡すには裁判のやり直し、すなわち再審を開始すること以外にない。重大な憲法違反の手続で死刑判決、しかし再審は認められない、生命は奪われる、こんな不正義を許さないのが我が国の司法である。菊池事件は、この一事のみにおいても、非常救済手段としての再審請求が認められるべきものである(最高裁判所大法廷昭和47年12月20日判決参照)。
しかも、本決定は、弁護人が提出した新証拠(法医学鑑定書・供述心理学鑑定書)について証拠価値を否定したが、確定審の手続保障が欠けたのはハンセン病に対する差別や偏見が理由であるとしたのだから、確定判決の事実認定にも差別や偏見に基づく事実誤認があったのではないかという視点を持ち、真摯に新証拠に向き合うべきであったのにこれも怠っている。
弁護団は本決定を不服とし、去る2月2日、福岡高等裁判所に即時抗告をした。その即時抗告審が同月10日に同高等裁判所で異例の早さで始まった。同日の進行協議において同高等裁判所は「スピード感をもって進めたい」と説明したという。
当会は、1日も早く菊池事件の再審が開始され、被告人の無実が明らかになることを願うとともに、死刑制度の廃止及び手続の憲法違反を再審事由として規定することを含めた再審法の改正等えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して努力していくことを固く決意する。
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