東京弁護士会

消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子 (「消費者団体訴訟制度」の導入について)に対する会長声明

2006年01月12日

東京弁護士会 会長 柳瀬 康治

 内閣府国民生活局は、平成17年12月16日付けで「消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子(「消費者団体訴訟制度」の導入について)」を公表した。

1.差止の対象とすべき実体法について
法案骨子は、差止の対象とすべき実体法として、消費者契約法4条、8条ないし10条に限定している。
しかしながら、実際の被害事例を見ても、民法の特別法である消費者契約法の規定のみで救済できるケースは限られており、少なくとも、民法96条、90条、1条2項の規定をも対象にしなければ、本制度の実効性を欠くこととなる。要件の具体性・明確性については、裁判例の積み重ねもあり、また、消費者契約法との比較において自ずと具体化・明確化されるものであるから、差止の対象から除外すべき理由にはあたらない。借地借家法の強行規定(16条、21条、30条、37条)についても、要件の明確性に欠けることはなく、差止の対象とすべきは当然である。

2.不当な契約条項の使用「推奨行為」について
また、法案骨子は、不当な契約条項の使用「推奨行為」を差止の対象としていない。
これでは、推奨された不当な契約条項を実際に使用した段階で差し止めるほかなく、消費者被害の発生・拡大防止をはかることは事実上不可能となる。事業者団体への萎縮効果についても、あくまでも、不当な契約条項を差し止めるだけであり、適格消費者団体に必要以上の権限を与えるものではないから、萎縮効果をもたらすものとは考えられない。現に、「推奨行為」の差止は、ドイツ、フランス、イギリス等、諸外国で広く取り入れられており、その必要性は既に実証済であるし、事業者団体への萎縮効果が生じているとの報告もない。

3.裁判管轄について
さらに、法案骨子において、裁判管轄に事業者の営業所等が含まれることになったことは評価できるものの、差止の対象となる行為が行われ、行われるおそれがある地が含まれておらず、不十分である。
差止の対象は、不当約款や不当な勧誘行為であるから、実際に約款が使用され、勧誘行為が行われた場合に行使される。かかる場合において、現に不当な約款が使用され、違法な勧誘行為が行われている地で差止訴訟が提起できないとなると、適格消費者団体に加重な負担を強いるものであり、かえって萎縮効果を生じさせることにもなりかねない。
また、不当な勧誘が行われている地の消費者が、さらに被害に遭おうとしているときに、その地でどのような勧誘が行われたのか証拠をもって明らかにし、今後、同様の勧誘が行われないようにするためには、行為地に裁判管轄を認めるのが合理的であり、必要性が高い。
事業者としても、営業所等がなくとも、自ら事業活動を展開し、展開しようとしている地であれば、応訴の負担を被るのはむしろ当然であり、格別の負担があるとは考えられない。
さらに、営業所等の所在地と行為地は一致するものではなく、事業者が、意図的に、裁判籍の認められる地では不当な勧誘行為を行わず、他の地域で不当な勧誘行為を行うことも考えられるのであって、これでは法の抜け穴を作るに等しい。
差止の対象となる行為が行われ、行われるおそれがある地を裁判管轄として認めなければ、本制度を実効あらしめることはできない。

4.既判力の範囲について
さらに、法案骨子は「適格消費者団体による確定判決等が存する場合、同一事件の請求は原則とすることができない」とするが、実際に問題となるのは適格消費者団体の事業者に対する敗訴判決が確定した場合である。
この法案骨子は、紛争の蒸し返しの懸念に応えるものと思われるが、二当事者間の裁判の結果、他の適格消費者団体が、手続保証もなしに訴権を奪われることになり、極めて不当である。
そもそも、団体訴権を与えられるのは、濫訴防止の見地より、一定の適格性を保持した消費者団体に限られており、その意味において、紛争の蒸し返しなど不適切な訴えが提起されることはおよそ考えにくい。
また、社会の進化により価値観や規範が変化するにもかかわらず、一度確定判決がでると、その後の変化に対応できなくなる制度は、正義に反する。
既判力の範囲は、当該事件の当事者限りとし、他の適格消費者団体には及ばないこととすることが民事訴訟法の基本原則にも整合的である。

5.適格消費者団体に対する各種支援について
また、法案骨子は、適格消費者団体は差止請求関係業務を適正に遂行するに足りる経理的基礎を有していなければならないとしながら、他方、適格消費者団体は特定非営利活動法人又は公益法人であることとし、訴訟費用と間接強制金等を除いては相手方から財産上の利益を受けてはならないとしている。
本制度を担う適格消費者団体の財政基盤が未だ脆弱であり、今後も、わずかな会費や寄付金、研修等の収入しか見込めない現状では、到底、本制度で要求されている活動を遂行することはできない。
本制度は、消費者被害の発生・拡大防止という公益的見地より導入されるものであるから、本制度を実効あらしめるために、行政が、適格消費者団体に対し補助金を支出するなど、財政支援を行うべきである。
加えて、民事法律扶助や消費者保護条例の訴訟援助の対象とすること、専門家の紹介制度を導入することなどが認められるべきである。

6.見直し規定について
ところで、平成17年6月30日付け国民生活審議会消費者政策部会「消費者団体訴訟制度に在り方について」では、時間的制約により、適格消費者団体が個々の被害者に代わって損害賠償を請求する制度を導入することにつき、具体的な検討がなされなかったが、今回、認められた差止請求だけでは、被害の発生・拡大防止に資するにしても、違法な行為を行った事業者には何のペナルティもないことから、差止以前に獲得された不当な利益は事業者が保持することとなる。これでは、違法行為の抑止機能としては不十分であるし、多数かつ少額の被害を受けた消費者の救済にも資するところがない。
本制度は、差止に加えて、事業者が得た不当な利得を吐き出させることをもって初めて、制度として完全に機能するものであり、損害賠償請求ないし不当利益を剥奪する制度の導入は、喫緊の課題として検討すべきであり、消費者契約法の付則に明記すべきである。
また、団体訴権の導入は我が国では初めてのことであり、本制度の実効性をさらに高めるためにも、施行後5年を目処に、消費者団体訴訟制度を見直す旨、付則に明記すべきである

7.平成18年通常国会での立法化
以上のとおり、当会は、消費者団体訴訟制度の導入に反対するものではなく、消費者被害の発生・拡大防止に真に実効性ある消費者団体訴訟制度の早期実現を求めるものであり、平成18年通常国会にて、確実に立法化されるよう、強く要望する。

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