個人情報保護法改正案につき慎重審議を求める会長声明
2026年07月03日
東京弁護士会 会長 石原 修
2026(令和8)年5月26日、個人情報保護法改正案が衆議院を通過した。現在、参議院で審議中である。これはいわゆる「3年ごと見直し」といわれるものであり、デジタル技術の急速な進展に伴い、個人情報を含むデータの利活用に対する需要と個人の権利利益の保護を両立させるために必要な見直しである。
改正案について、経済的誘因のある大量の個人情報の取扱いによる悪質な違反行為を実効的に抑止するために課徴金制度を導入し、16歳未満の者が本人である場合に同意取得や通知等について当該本人の法定代理人を対象とすることを明文化する点などは評価できる。
しかし、AI開発等を含む統計作成等について、本人同意を不要とする等の特例(改正案第30条の2第1項)を設けることは、提供元が保有する氏名・住所といった個人識別情報や人種・信条・病歴などの要配慮個人情報を何ら加工せずに提供することを認めるものであり、個人の権利利益を侵害するおそれを高めるものである。
このような特例が導入されると、個人識別性のある状態で、本人同意なく、広範囲にデータが取得・分析・突合され、プロファイリングやスコアリングに利用されて、これが個人に当てはめ・評価されることによって、新たな差別やプライバシー侵害を引き起こすおそれがある(衆議院の附帯決議5項も、「広告の閲覧履歴や商品の購入履歴等から信条等の機微な情報を推知する等の精度の高いプロファイリングの手法が普及している」ことを挙げる。)。少なくとも個人識別性を無くす加工をすることを義務付けるべきである。
改正案では、統計作成等特例が適用される統計情報等の範囲(改正案第2条第13項)が法文上必ずしも明確でなく、作成された統計情報等自体の取扱いに関する規制もなく、個人の権利利益の侵害を引き起こすおそれに対する配慮が極めて不十分である。これらについては委員会規則等ではなく、法律で定めるべきである。
また、改正案は、病院などによる学術研究目的での個人情報の取扱いに関し、従前は学術研究機関に該当しないとされていた病院や診療所等も「学術研究機関等」に含まれることを明示する(改正案第16条第9項)として、診断・治療の方法に関する臨床症例の分析や研究に資することを目指している。医療情報については、医療の発展のための利活用の必要性が否定できない一方、ゲノム情報等取扱いの態様によっては本人のみならず家族等の権利利益への深刻な侵害を招来する危険性が高いという特質を有することから、このような部分的な対応では不十分である。医療分野の個人情報保護法を立法して対応すべきである。
デジタル化の進展により、データ化された個人情報は、大量に保存でき、移転・分析が容易となった一方で、本人が知らないうちに漏えいし、名簿業者等の手に渡って、特殊詐欺などの犯罪に利用されることも増えている。
このような社会状況において、法律による実効的な歯止めがないままAIの開発促進のために要配慮個人情報を含む個人情報の利活用の拡大を認める改正案は、市民の不安に応えるものになっているとはいえない。参議院においては、デジタル社会における個人情報の蓄積・漏えい・悪用の危険性を踏まえた改正案となるよう慎重な審議を求める。
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