「ヒロシマ・ナガサキ」に寄せる会長談話
2026年08月06日
東京弁護士会 会長 石原 修
81年前の夏、広島と長崎に原子爆弾が投下されました。原爆は多くの生命を無慈悲にも一瞬にして断ち切りました。生き延びた被爆者も後遺症に苦しみ、いつ発現するともわからない病魔の恐怖に脅え、原爆症の治療法も確立されていない中、社会の無理解や不十分な補償により筆舌に尽くし難い辛苦を余儀なくされてきました。今なおその被害の全容を正確に捉えることが出来ない程、原爆は空間的・時間的な広がりをもって多くの人々を苦しめ続けています。
こうした苛酷な状況にあって、「自分の味わっている苦しみを、他の人間たちに味わわせてはならない」と勇気を持って立ち上がり、たゆまぬ努力を続けてきた被爆者の方々の声が、「核のタブー」という国際規範形成の大きな原動力となってきました。私たちはこのことに、心からの敬意と深い感謝の念を抱かずにはいられません。80年以上にわたり、核兵器が実戦で使用されなかった歴史の裏には、核兵器の完全廃絶を訴えてきた被爆者による草の根の地道な活動があります。
2024年、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞したことは、このことを示す証左です。
しかし、現在の国際秩序は、「核のタブー」という一線を越えかねない不安定な様相を呈しています。世界の核弾頭の約9割を保有するとされる米国・ロシア間における唯一の核軍縮枠組であった新戦略兵器削減条約(新START)は、本年2月5日に失効しました。本年4月に開催されたNPT(核拡散防止条約)運用検討会議は、3回連続で最終文書を採択出来ないまま閉幕し、核軍縮の道はなお遠いと言わざるを得ません。今日、米国及びイスラエルによるイランへの軍事攻撃は、未だ応酬を繰り返しており、ロシアによるウクライナ侵攻は、4年以上が経過した現在も収束のきざしは見えません。核兵器の開発・保有・使用・威嚇等を国際法上全面的に禁じた核兵器禁止条約は、発効から5年以上を経て参加国や地域を広げています。しかしながら、唯一の戦争被爆国である我が国は、未だ締結しておりません。
そればかりか、政府は防衛費の大幅な増額に舵を切り、安保三文書の改定に伴う非核三原則の見直しの議論や、防衛装備移転三原則の緩和(五類型の撤廃)による現に戦闘が行われていると判断される国も含む武器輸出の解禁など、従来の専守防衛や平和主義の在り方を根底から揺るがしかねない安全保障政策の転換を推し進めています。
我が国は平和主義・国際協調主義を掲げる憲法を有しています。その根底には、平和維持と国際協力に背を向け、悲惨なアジア・太平洋戦争へと突き進み、数多くの被爆者、戦争被害者を生んだ歴史への痛烈な反省があったはずです。現在の情勢が不安定であるからこそ、過去を振り返り、未来を推し量る視点が必要とされているように思われてなりません。
被爆者の平均年齢が86歳を超えた今、「あの戦争を絶対に繰り返してはならない」とする被爆者の方々の声に思いを馳せるとともに、国際社会に平和を約束した日本国憲法が80周年を迎えることの意義を改めて問い直し、その精神を次の世代に繋げていくことが、法の支配と基本的人権の擁護を担う法律専門家団体としての当会に課せられた重い使命です。
当会は、時代の波に流されることなく、核兵器廃絶と恒久平和の理念を堅持し続けることを、ここに固く誓います。
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