東京弁護士会

東京都国民保護計画作成に対する会長声明

2006年01月17日

東京弁護士会 会長 柳瀬 康治

東京都は、平成16年6月に成立した「武力攻撃事態における国民の保護のための措置に関する法律」(以下「国民保護法」という)に基づき、東京都国民保護協議会を設置し、同協議会は、同17年11月24日、東京都知事に対して、東京都国民保護計画案(以下、「国民保護計画案」という)の答申を行った。しかしながら、その作成過程は、第1回協議会(同年5月25日開催)における趣旨説明、第2回協議会(同年8月29日開催)における国民保護計画の素案の審議を経て、極めて短期間の意見聴取(同年9月30日締切)を行い、同年11月24日開催の第3回協議会において協議会意見を取りまとめて、国民保護計画案の答申に至ったという、極めて性急なものである。
しかも、その内容には、以下に述べるように、憲法の基本原理である基本的人権の尊重、恒久平和主義の理念に鑑み、極めて重大な問題を含んでいると言わざるを得ない。

1.国民保護計画案では、「武力攻撃事態の類型」として、(1)着上陸侵攻(2)ゲリラや特殊部隊による攻撃(3)弾道ミサイル攻撃(4)航空攻撃の4つの場合を想定し、これら類型においてNBC攻撃(核兵器、生物兵器、化学兵器による攻撃)が行われることも考慮するとされている。そして、その際の「保護措置」として、(1)住民避難に関する措置(2)避難住民等の救援に関する措置(3)武力攻撃災害への対処に関する措置の3つが定められており、その主たる内容は警報の発令、避難の指示・誘導、避難先での救援など(収容施設の供与、食品・飲料水等の給与、医療の提供など)となっている。
しかしながら、1,250万人の都民が暮らし、昼間人口が1,500万人に達する東京都において、第2次世界大戦時の東京大空襲の例を持ち出すまでもなく、「武力攻撃事態」の際の「保護措置」によって、どれだけの都民が保護されることになるのか極めて疑問である。極めて限定された局地的事態は別として、そのレベルを超える事態においては、「保護措置」と言ってもそれは名ばかりのものに過ぎず、住民に対して極めて甚大な耐え難い被害が生じることは避けられない。
それゆえ国民保護のためには、憲法の恒久平和主義の理念を遍く浸透させることを第1にすべきであるが、国民保護計画案にはそのような姿勢が殆ど窺われない。

2.国民保護法では、対処措置の協力者が協力の過程で蒙った被害は別にして、純然たる戦争被害については、僅かに税の免除、軽減等の措置が定められているだけであって、何の補償もない。このことは都民の誤解を避けるためにも、国民保護計画案の内容として、周知される必要がある。

3.国民保護計画案では、武力攻撃災害を自然災害と同様に扱い、自然災害への備えや予防手段を武力攻撃災害に無条件に転用している。しかし武力攻撃災害は人為的なもので外交努力によって回避しうるものである。しかるに、このような差異を無視して、武力攻撃災害の場合にも「平素の備えや予防」を強調することは、戦時の発想を平時に持ち込むことにつながり、日本国憲法の基本的人権尊重主義、恒久平和主義と矛盾する事態を平時に持ち込むことになりかねない。「平素の備えや予防」を言うならば、何よりも「武力攻撃事態」を回避するための平和的努力が強調されなければならない。

4.当会は、そもそも日本国憲法の平和主義、人権尊重の原理に立ち返って国民保護法の再検討が必要であると考えているが、その点を措くとしても、国民保護計画案は、表現の自由の保障、地方自治の本旨等からみて看過できない問題点を多々含んでいる。
それゆえ、当会は、未だ内容が十分論議されたとはいえない段階で、拙速に国民保護計画案を確定することには反対であり、慎重な対応をすることを強く求める。

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