8月15日を迎えての会長談話
2026年08月15日
東京弁護士会 会長 石原 修
今から81年前(1945年)の今日、日本国民は「玉音放送」によって無条件降伏を知らされ、敗戦を受け入れました。その後連合国による占領支配を受けながら、荒廃した国土の復興と再建に取り組んできました。戦争放棄を宣言する新憲法を制定し、国民主権のもと、日本は戦後四半世紀の間に目覚ましい経済発展をなし遂げ、様々な社会問題を孕みながら20世紀後半には先進国と呼ばれるまでになりました。
日中戦争からアジア・太平洋戦争における日本人の戦没者は310万人に達すると言われています。しかも、戦死者の多くが1944年以降のものであり、敗戦濃厚とされた情勢下で玉砕と言われた実態の多くが、補給路を断たれたことによる物資も人員も補充できない中での餓死や戦病死であったとされています。また一方では、沖縄戦、原子爆弾、空襲等におけるいわゆる一般戦争被害者に対する補償も十分になされていません。被害の面ばかりでなく、同時に、日本が近隣のアジア諸国に対して非人道的な侵略を行い、甚大な被害を与えた事実も忘れてはなりません。戦後80年以上を過ぎて、戦争を直接体験した世代の方が亡くなっていく中で、戦争被害の恐ろしさ、惨さが次世代に正しく継承されているか、もう一度振り返ってみることが必要です。子どもから大人まであらゆる世代が、まずは先入観無しに戦跡、資料館、記録映像、平和や人権のための活動等を見て、それを契機に平和や人権について考えるということは平和・人権教育の原点であり、これに対する規制は許されません。
新憲法は、基本原則として戦争放棄の条項を設け、一切の戦力を持たないと規定しました。その後の国際情勢から自衛のための必要最小限度の実力組織として自衛隊を創設しましたが、現在の自衛隊は、それを大きく超え、世界有数の実力(軍事力)を保有する状態となっています。日米安全保障条約と日米地位協定のため、日本国土には沖縄をはじめ各地に米軍基地が存在し、日本の領土でありながら事実上の支配権が米国にあるという地域も存在します。近年、中国の東シナ海・南シナ海への海洋進出と台湾問題が、東アジアの緊張の大きな要因になっているとして、日本はアメリカの要請を受けながら防衛力を急激に増大しており、日米合同訓練もより実戦に近い形で大規模に行われるようになってきました。専守防衛の限りで認めていたはずの防衛力が、敵基地攻撃も可能な防衛力へと変容しています。
こうした事態は、敗戦後の日本国民が手にした日本国憲法の理念にかなうものでしょうか。
日本国憲法制定当時の国民は、他国を侵略すること、武力行使によって紛争を解決することの愚かさを十二分に知って、将来の国民とともに、憲法で戦争放棄を誓い、戦力の不保持を定めたはずです。他国の脅威に対抗するとして、武力による抑止を進めるなら、軍事費は増大し、日本も軍事大国化への道をさらに歩むことになってしまいます。
世界では今、国連の常任理事国である大国が、国際協調よりも自国の利益を優先する事態になっています。ロシアの侵攻によって始まったウクライナ戦争は4年を経過しても和平の道筋は描けておらず、アメリカはイランに対する先制攻撃を行い、世界経済にも大きな打撃を与えています。イスラエルはガザの民衆に対するミサイルやドローンによる攻撃を繰り返しており、まさにジェノサイドを疑う事態となっています。こうした世界情勢に対しても、私たちは関心を持ち、平和の構築のために働きかける必要があります。日本国憲法はその前文で、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と述べ、「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と述べています。私たちは、国際社会に対しても、平和の維持、構築のために努めていく責務があると考えます。
軍事力で国際紛争を解決しようとすることが誤りであることは、今現に起きている国際紛争を見ても明らかなことです。壊滅的とも言える敗戦を経てつかみ取った「軍事的価値の否定」という日本国憲法の平和主義の理念は、維持されるべきものと考えます。私たち弁護士、弁護士会は、このような憲法理念の実現のため、今後も政府に対して必要な意見を述べ、また、市民の皆さんと共に活動を続けていきます。
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