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再審法改正の成立に当たっての会長声明

2026年08月28日

東京弁護士会 会長 石原 修

1 刑訴法第4編「再審」(以下「再審法」という。)の改正は、第221回特別国会において、2026(令和8)年7月17日、参議院本会議で可決され、成立した。

再審法は約78年間一度も改正されていなかったが、今般初めて改正されたものであり、まずは再審法改正に向けて尽力されてきたえん罪被害者とその御家族、支援団体、市民の方々、国会議員の方々、地方自治体首長、地方議会の方々等に深甚なる敬意を表するものである。

成立した改正再審法は、①再審開始決定に対する検察官の不服申立を原則として禁止していること(第450条の2)、②再審請求審における証拠の提出命令の制度が新設されたこと(第445条の2)、③通常審に関与した裁判官を、一定の範囲で後の再審請求審から除斥すること(第438条)、④審判開始決定後の手続規定が整備されたこと(第447条の7~10)等、一定の評価をすべきものではある。

しかし、成立した改正再審法には、未だ不十分な点や懸念される事項が多数残されている。その主なものは、以下のとおりである。

第1に、再審開始決定に対する検察官の不服申立は「当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合」に、例外的とはいえ許容されている。検察官が「十分に根拠がある」と判断すれば不服申立が可能となる制度であって再審が長引く問題の解決にはなっていない。国会審議では、裁判所が「十分な根拠」がないと判断した場合には早期に抗告を棄却することも可能との答弁がなされたものの、そのような運用がなされるか不透明である。

第2に、証拠の提出命令は、裁判所に証拠を提出する方法によるものとし、その対象を、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」について、関連性、必要性、弊害の程度等を考慮し、相当と認めるものに限定している。

しかも再審請求者に対して証拠が直接開示される規定がなく、裁判所の職権により再審請求理由との「関連性」とは無関係に幅広く証拠が開示される規定もなく、証拠一覧表もインカメラで裁判所にしか開示されない。

そもそも証拠は捜査機関が独占できるものではない。これまでのえん罪事件も一見無関係に見える証拠の中から無罪の証拠が発見されたのであり、このような規定では、関連性、必要性、相当性を弁護人が具体的に主張、疎明しない限り、証拠開示が認められないおそれがある。また、裁判所が証拠の提出を命じない限り、再審請求人と弁護人は直接証拠にアクセスできないことになる。今後の運用次第では、これまでのえん罪事件で再審無罪を決定づけた証拠、なかでも ※1袴田事件の「5点の衣類」のカラー写真や、※2福井事件の「テレビ番組の放映日」に関する ※3捜査報告書等のような証拠も、提出されないおそれがある。

第3に、再審請求手続で検察官から提出された証拠について、再審請求者と弁護人に目的外使用の禁止を定め、罰則も設けている(第445条の6)。

再審請求手続で新たに検察官から提出された証拠を適正に保管しなければならないことは言うまでもない。しかし、袴田事件では、支援者が「5点の衣類」のカラー写真を見て不自然だと発言したことが再審開始決定を獲得する新証拠のきっかけとなった。国会審議では、このように再審請求人とともに活動をしてきた支援者と間で、開示された新証拠を検討したり実験を行ったりすることは、目的外使用の禁止に当たらない旨の答弁がなされたが、運用次第ではその線引きは曖昧なものになりかねない。また、報道機関やジャーナリストが、裁判の証拠等を取材して問題を指摘したり、国民の知る権利のために活動したりすることも目的外使用にあたるとされる懸念があり、萎縮効果は非常に大きいものがある。

2 今回の再審法改正は、その立法事実として、袴田事件や福井事件等のえん罪事件において、検察官による無罪証拠の隠蔽、再審開始決定に対する不服申立で、再審無罪を獲得するまで極めて長い年月がかかり、えん罪被害者の人生が奪われているという深刻な状況があった。すなわち、今回の再審法改正は、検察改革の側面があった。

しかるに、2025(令和7)年6月18日に「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が再審法の抜本的な改正案を衆議院に提出するや否や、検察官・検察庁と密接な関係がある法務省は、これと重複・並行して、自らが事務局を務める法制審議会にて、再審法改正案の審議を行うこととし、しかも、研究者委員の人選基準等は極めて不透明なまま、再審や誤判に関して積極的に研究してきた研究者は選ばれることなく審議を行い、その結果、上記のような不十分な改正となってしまった。

本年7月10日に公表された名古屋高検作成の福井事件に関する調査結果報告書では、上記捜査報告書を弁護人に開示しないまま第1次再審請求の再審開始決定に対して検察官が不服申立を行ったことについて、「これが取り消されるべき十分な理由があるものと判断した」としており、これでは従前と変わらぬ運用がなされるおそれがある。

今回の再審法改正に際して、法務省、検察庁は、近年でも多数のえん罪事件が判明しているという事実について顧みず、終始一貫して消極的な姿勢を取り続けてきたことについては、極めて遺憾である。

3 改正再審法の附則では、①改正法の施行後5年毎に見直しを行うこと、見直しを検討する対象として、証拠一覧表の開示と目的外使用の禁止が明記され(附則第2条)、②裁判所が証拠の提出や開示を勧告し、検察官が任意で応じている現在の実務運用について、引き続き適切に行うとされた(附則第4条)。

当会は、成立した再審改正法の適正な解釈及び運用を求めていくとともに、5年後の見直しに向けて、えん罪被害者を迅速かつ容易に救済する再審法を実現するための運動を、引き続き市民や報道機関とともに進めていく決意である。

※1
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/publication/pamphlet/saishinhou_kaisei_2.pdf
※2
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/publication/pamphlet/saishinhou_kaisei_5.pdf
※3
「目撃証人」が事件を目撃した日に放映されていたとされる番組の放映日が、実際は別の日であったとの内容が記載された捜査報告書

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