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障害のある人の人権に関する基礎講座

高齢者・障害者の権利に関する特別委員会
委員 深道 祐子(58期)
元委員 近岡美由紀(61期)
委員 山田 恵太(65期)

 本稿では,障害のある人に関する法律相談を受けるにあたっての基礎となるべき事項を述べる。ただし,障害のある人に関する法制度等は多岐にわたり,紙幅の都合上,その全てに触れることは難しい。そこで,ここでは,近時の障害のある人に関する制度改革の流れを敷衍した上で,障害者権利条約および障害者差別解消法について簡単に解説を行う。

障害者法制度改革の流れを押さえておこう!

 障害者法制度改革は,2006年12月に,国連総会本会議で「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)が採択されたことに端を発する。障害者権利条約は,障害のある人に関する初めての国際約束であり,2008年5月に国際的に発効した。
 日本国内では,条約の締結に先立ち,国内法の整備をはじめとする諸改革を進めるべきとの障害当事者団体等の意見が根強くあったことから,政府は,2009年12月,閣議決定により「障がい者制度改革推進本部」を設置し,国内制度改革を進めていくこととした。その結果,図1のとおり,国内で様々な法制度整備が行われた。
 そして,これらの法整備等により一定の国内の障害者制度の充実がなされたとして,2013年10月,条約締結に向けた国会での議論が始まり,2014年1月20日に,障害者権利条約の批准書を国連に寄託,同年2月19日に日本国内において発効した。

障害者権利条約って?

 障害者権利条約(以下「権利条約」という)の特徴は,「Nothing about us without us!(私たち抜きに私たちのことを決めるな!)」をスローガンに,障害当事者団体も加わって作成されたことにある。そうして作成された条約は,一般原則として,固有の尊厳,自己決定権,差別禁止,社会への完全かつ実効的な参加権の保障と社会の完全な受け入れ義務,障害者である前に人間であるとして受け入れられること,あらゆる機会の均等,利用可能な施設サービスの整備,男女の平等,障害のある子どもに対する個人の尊厳,個性の尊重及び発展可能性の保障を掲げる(3条)。
 権利条約において定められた「権利」は,「障害のある人だけに特別に与えられる権利」ではない。誰もが持っているべき権利であるはずなのに,実際には障害のある人が持つことのできなかった権利を明らかにし,それを一覧にしたものが権利条約であるともいえる。
 権利条約は,25項目の前文と50条の本則からなるものであるが,その中であえてポイントを挙げるとすれば,①社会モデルへの転換(3頁参照),②合理的配慮の不提供を含めたあらゆる差別の禁止,③地域社会で生活する権利の確認(19条),④平等な法的能力を有することの確認と,その行使に当たって必要となる支援を提供することの義務づけ(意思決定支援,12条),⑤あらゆる段階においてインクルーシブ教育が原則であることの確認(24条)などである。これ以外にも,権利条約の定めているところは広い範囲にわたる。障害のある人に関する法律相談を受けた際には,最初に権利条約に立ち返り,その内容を確認していただきたい。

障害者差別解消法って?

 2016年4月1日に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」という)は,障害者基本法4条の「差別の禁止」を具体的に実現するために制定された法律である。①障害を理由に差別的取扱いや権利侵害をしてはいけないこと,②社会的障壁を取り除くための合理的な配慮をすること,③国は差別や権利侵害を防止するための啓発や知識を広めるための取り組みを行わなければならないこと,がその柱となっている。
 障害者差別解消法が禁止する差別には,2種類ある。「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮を行わないこと(合理的配慮の不提供)」である。
「不当な差別的取扱い」とは,障害を理由として,サービスの提供を拒否することや,サービスの提供にあたって場所や時間帯などを制限すること,障害のない人にはつけない条件をつけることなどをいう。一方,「合理的配慮」とは,障害のある人が対面している困難さを取り除くために,それぞれの障害特性等に応じて個別の調整や変更を行うことをいう。
 左記に,不当な差別的取扱いと合理的配慮の具体例をあげる(図2)。
 「不当な差別的取扱い」については,行政機関等および事業者に対して,これを禁じており,法的な義務となっている(7条1項,8条1項)。これに対して,「合理的配慮の提供」は,行政機関等については法的義務として課されているが,事業者に対しては努力義務となっている(7条2項,8条2項)。
 ただし,障害者差別解消法と同時期に改正された障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「雇用促進法」という)の34条,35条,36条の2,36条の3において,事業者は,労働者の募集・採用においては均等な機会を与えることが求められ,採用後においては賃金その他の待遇に関して不当な差別的取扱いが禁止され,合理的配慮に関しては,募集・採用においては障害者の申出により,採用後は申出がなくてもこれを提供しなければならないとされている(図3)。
 法律相談等で,差別に関する事例に出会った場合には,不当な差別的取扱いの問題なのか,合理的配慮の不提供なのか,それが相手方にとって法的義務となっているのか等を判断し,その後の解決に向けて動き出していく必要がある。そして,実際に事件を受任した場合には,交渉や裁判によって,解決を目指していくことになるだろう(自治体によっては,独自に差別に関する相談窓口やあっせんを行う機関を用意しているところもある)。
 また,弁護士は,自らも合理的配慮の提供を怠ってはならない。例えば,雇用している事務職員に障害がある場合には,法的義務として合理的配慮の提供を行わなければならない。さらに,法律相談においても,相談者に障害がある場合には,不当な差別的取扱いは禁止されることはもちろん,相談者に対する合理的配慮の提供を尽くすことが求められる。