東京弁護士会

会員の担当した障害のある人の人権訴訟の紹介

*各新聞記事は,許諾を得て掲載しています。

保育園入園承諾義務付け訴訟・仮の義務付け申立て(鈴花ちゃん訴訟)

中根 秀樹会員(47 期)

 気管の障害のため,頻回にたんの吸引が必要であるという理由により普通保育園入園が不承諾となった児童及びその両親が,不承諾処分の取消と入園承諾処分の義務付け等を求める訴えを提起するとともに,「仮の義務付け」(行政事件訴訟法37条の5)の申立てを行った事案です。東京地裁は,「幼児期においてどのような環境においてどのような生活を送るかはその子どもの心身の成長,発達のために重要な事柄」であり,保育園に入園して保育を受ける機会を喪失するという損害は「填補が不能な損害」であって,「真にふさわしい保育を行う上では,障害者であるからといって一律に障害のない者が通う普通保育園における保育を認めないことは許されず,障害の程度を考えて,当該児童が,普通保育園に通う児童と身体的,精神的状態及び発達の点で同視することができ,普通保育園での保育が可能な場合には,普通保育園での保育を実施すべきである」として,仮の義務付け決定を行い,2006年2月2日,保育園への「仮の」入園が認められました。同年10月25日に不承諾処分の取消と入園承諾処分を義務付ける旨の判決を得て,翌年3月無事保育園を卒園し,4月には(普通)小学校への入学が認められました。たんの吸引など医療的ケアを必要とする児童に普通保育を受ける門戸を開いた重要な意義を有する訴訟です。(2006年10月26日 朝日新聞)

「移動支援費鈴木訴訟」障害者の介護保障事件は弁護士の重要な仕事です。

藤岡 毅会員(47期)

 脳性まひによる全身性障害者鈴木敬治さんが原告となり,月124時間の移動介護給付が行政の一方的に制定した上限32時間に削減されたのは違法と訴えた,障害者福祉に関する行政訴訟です。
 2006年11月29日東京地裁は「法は支給時間を各障害者ごとに個別に判断することを求めている」旨判断し,一律上限で支給時間を決めた行政処分を違法としました。但し,訴訟途中で法改正があったことを理由とした原告敗訴判決でした【第一次鈴木訴訟】。
 この判決で示された『介護給付は,個々の障害者ごとの個別事情に則して決められるべき』とする【障害者介護給付における必要即応の原則】は,その後【福島地裁2007年9月18日船引町支援費訴訟判決】,【東京地裁2010年7月28日第二次鈴木訴訟判決】,【大阪高裁2011年12月14日石田訴訟判決】,【和歌山地裁2012年4月25日ALS訴訟判決】等に引き継がれ,障害者の人権訴訟における「法理」として,確立していきます。
 従来「福祉の専門家の仕事」と思われてきた障害者福祉事件が,弁護士の重要な仕事であり使命であることを示した訴訟といえると思います。(2006年11月30日 東京新聞)

障害者自立支援法違憲訴訟~基本合意の実現は道半ば~

黒嵜 隆会員(50期)

 本訴訟は,必要とする支援の量に応じた負担を強いることになる「応益負担」を定めた障害者自立支援法が,障害のある人に対する差別であり,基本的人権を侵害するものとして,2008年10月から2009年10月にかけて,障害のある当事者ら71人が全国14地裁で応益負担制度の廃止を求めて国を提訴したものです。応益負担制度によると,食事,排泄,移動などに多くの援助が必要となる障害の程度の重い人が,より多くの負担を強いられることになるのです。
 本訴訟において,原告団・弁護団と被告である国は,2010年1月7日,「すみやかに応益負担制度を廃止し,2013年8月までに障害者自立支援法を廃止し新たな総合福祉法制を実施する」「障害福祉施策の充実は,憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする」ことなどを確約する基本合意を締結しました。そして,同合意は2010年4月21日までに全国14の地方裁判所にて誓約されて,訴訟上の和解が成立しました。
 国との間で基本合意が成立したことは画期的ですが,和解成立後いまだ基本合意の趣旨の実現は道半ばであり,国との協議,運動は今日まで続いています。 (2010年1月8日 朝日新聞)

被後見人の選挙権回復裁判 違憲判決から公職選挙法改正まで74日

杉浦ひとみ会員(51期)

 この事件は,成年後見制度を利用して被後見人となったために選挙権を奪われたダウン症の女性が被後見人に選挙権を認めないとした公職選挙法11条1項1号は違憲だと,2011年2月1日東京地方裁判所に提訴した事件です。女性は20歳から欠かさず父母と一緒に選挙に行き,テレビで政見放送を観たり,投票後には投票内容を口外しないなど選挙のルールも実行していました。しかし,本人を尊重するはずの成年後見制度を利用したところ選挙はがきが来なくなり好きな選挙に行けなくなってしまいました。裁判では2点が争点でした。①選挙権を能力によって制限することは憲法に違反するか。②仮に選挙に能力が必要だとしても,成年後見制度によって被後見人となったことを,選挙能力の判断のために借用することは憲法に違反するか。2013年3月14日,東京地裁は公選法11条1項1号を違憲と判決。被後見人全員が選挙のための能力を欠く者ではなく,成年後見制度を借用した制限は過剰であるとの理由でした。判決から74日後の2013年5月27日,公選法の制限規定が削除され,同年7月の参院選挙では約13万6千人の被後見人の選挙権が回復されました。重大な権利を見落としていた弁護士の責任も感じた事件でした。経験の長短ではなく,おかしいと思った問題には取り組んでみるべきと思います。 (2013年3月15日 毎日新聞)

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