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「収容・送還に関する専門部会」に対し、人権保障の観点からの抜本的な議論を求める会長声明

2019年10月31日

東京弁護士会 会長 篠塚 力

1 出入国在留管理庁は、本年9月19日、出入国管理政策懇談会に収容・送還に関する専門部会(以下「専門部会」という。)を設置すると発表した(※1) 。
 この専門部会の検討課題は「送還忌避者の増加や収容の長期化を防止するための方策」とされ、来年3月までに上記懇談会に最終報告を行うことを目標としている(※2) 。
2 近時、非正規滞在者の収容の長期化傾向が極めて深刻な状況に陥っている。本年6月末現在の東日本入国管理センターの被収容者316名のうち6か月以上の被収容者が301名に上り、うち1年以上の者が279名に上る。同様に大村入国管理センターの被収容者128名のうち6か月以上の被収容者が110名に上り、うち1年以上の者が92名に上る。収容期間が2年や3年を超える被収容者も多数含まれている(※3) 。
 本来、退去強制令書による収容は、強制送還の準備のためだけに認められるものであるにもかかわらず、送還の予定が立っていない外国人や送還が法律上禁止されている難民申請者が収容され、しかも、その長期化が甚だしい入管行政の現状は座視できない。被収容者の中から死者まで出る事態に至ったことに対して、当会は再三にわたり、被収容者の人命を軽視した非人間的な処遇に抗議し、改善を求めてきたところである(※4) 。
 したがって、専門部会が設置されて議論が開始されること自体は歓迎し、専門部会において、長期収容の解決策が真摯に検討されることを期待する。
3 ところが、法務大臣は、収容の長期化に対する解決策として、仮放免の身元保証人となるべき者の適性検査の厳格化や保証金額の設定の見直しを指示したという(※5) 。これは収容の長期化をさらに助長するもので、あるべき方向に逆行する。
 収容の長期化に対する解決策としては、収容期間に上限を設けるのが最良である。実際、国連機関からは、日本政府に対して、収容期間に上限を設けるべき等の是正勧告が繰り返されており(※6) 、他の先進国でも収容期間に制限を設けることが一般的であることを考えれば、上記指示の誤りは明らかである(※7) 。
 加えて、収容の長期化に対する解決策としては在留特別許可の拡大等も考えるべきところ、法務大臣はそれらを想定していないと発言している(※8) 。
4 このように、専門部会に対して収容の長期化に対する解決策の検討を依頼しているにもかかわらず、法務大臣が結論の先取りとも言える指示をすることは、専門部会の軽視も甚だしい。 
 専門部会においては、法務大臣等が想定する結論ありきの議論ではなく、国際的な人権水準も踏まえた人権保障の観点から、法的整備の必要性も含めた抜本的な議論がなされ、真摯な提言がなされることを期待する。
 そして、議論の透明性を担保するため、会議や議事録の公開がなされることも併せて求める次第である。

(※1)2019年9月19日開催第16回出入国管理政策懇談会
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri06_00101.html
(※2)「第7次出入国管理政策懇談会における「収容・送還に関する専門部会(仮称)」 の開催について」(令和元年9月 出入国在留管理庁)
http://www.moj.go.jp/content/001306008.pdf
(※3)福島みずほ参議院議員ホームページ(http://mizuhoto.org/2091)掲載資料による。
(※4)2019年4月18日「入管収容施設で繰り返される被収容者の生命・健康の軽視や死亡事件に抗議し、適時適切な医療の提供及び仮放免の適切な運用を求める会長声明」、2019年7月1日「外国人の収容に係る運用を抜本的に改善し、不必要な収容を直ちにやめることを求める会長声明」、2019年7月31日「人間の尊厳を踏みにじる外国人長期収容と違法な再収容に抗議する会長声明
(※5)2019年10月4日法務大臣閣議後記者会見 
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_01170.html
(※6)自由権規約委員会第6回(2014年)日本定期報告審査にかかる総括所見パラグラフ19、人種差別撤廃委員会第7回・第8回・第9回(2014年)日本定期報告に関する総括所見パラグラフ23、同10・11回(2018年)総括所見パラグラフ35・36、拷問等禁止委員会第2回日本定期報告に関する(2013年)総括所見パラグラフ9など。
(※7)当会は本年3月5日、「出入国管理及び難民認定法の収容に関連する規定の改正を求める意見書」を発表し、収容期間に上限を設けることその他の法改正を提案している。https://www.toben.or.jp/message/ikensyo/post-525.html
(※8)脚注5に同じ。

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