国選弁護・付添制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明
2026年07月21日
東京弁護士会 会長 石原 修
刑事裁判及び少年審判は、国家権力により人の自由という重大な基本的人権を制限する手続である。近年、袴田事件や大川原化工機事件などの深刻なえん罪事件が後を絶たず、捜査機関側の鑑定の信用性を争う事案も多いことから、えん罪防止の生命線として、科学的・専門的検証は必要不可欠である。その一翼を担う国選弁護人や非行少年の付添人の役割はますます高まっている。令和3年時点で被疑者の86.6%、鑑別所収容少年の70.6%に国選弁護人・付添人が選任されており、本制度は司法の中核的な社会インフラである。しかし、長期にわたる構造的欠陥により持続可能性に大きな問題が生じている。
1 東京が置かれている実情
東京では、多言語事件、サイバー犯罪、「闇バイト」を契機とする「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」による重大犯罪など、犯罪の多様化・専門化が極めて顕著である。それに伴う証拠量の膨大化や公判前整理手続への対応などで弁護人・付添人に求められる職責は劇的に重くなっている。
また、高等裁判所と最高裁判所が存在するため、全国の多種多様な事件が集まってくるところ、控訴(抗告)・上告(再抗告)事件には様々な意味で対応困難な事件が多く含まれている。
それにもかかわらず、裁判員裁判等の特殊な事件を除き、国選弁護人は原則「1件1名」しか選任されず、国選付添人も多くの場合1名しか選任されず、重大事件においても1人の弁護士が過大な労力と責任を背負っている。
2 経済的コストに見合わない著しく低廉な国選報酬
国選弁護・付添報酬は日本司法支援センター発足から約20年間ほとんど据え置かれ、標準的な事件でも数万〜十数万円程度にとどまっている。
この間、最低賃金は約1.6倍となり物価も高騰した。特に東京では事務所賃料などの固定経費が高騰しており、熱心に国選弁護・付添事件を行うほど経費を差し引いた実質的報酬が目減りし、弁護士の「自己犠牲」なしには成り立たない構造的欠陥が露呈している。
3 不合理な報酬体系
現行の報酬体系は、弁護人・付添人が尽くした多大な労力や獲得した成果を正当に評価していない。いくつか例を挙げると、①被疑者段階では、基準接見回数を超えて熱心に接見を重ねても加算額が逓減される、②被告人段階では、追起訴加算は事件数に関わらず1回のみに制限され、公判加算報酬も極めて廉価、被告人段階の接見は何回・何時間重ねても接見回数に応じた手当てが全く存在しない、通訳を要する事件でも加算は存在しない、一審の否認事件では加算は存在しない、③国選付添事件では、追送致加算はなく、審理加算報酬は極めて廉価であり、少年との面会は何回・何時間重ねても面会回数に応じた手当てが全く存在しない、通訳を要する事件でも加算は存在しない、否認事件でも加算は存在しない、④被疑者・被告人の家族等関係者との密な連絡調整、再犯防止・社会復帰に向けた福祉専門職と連携した環境調整などにいくら時間と労力を費やしたとしても報酬に一切反映されない、⑤国選付添人の場合は環境調整加算があるものの、不処分または保護観察処分とならない限り加算されず、かつ、加算される場合でも労力に到底見合わない低廉な金額にとどまっている。
現行の報酬体系は、熱心に活動する者が自らの多大な負担において国選弁護制度を維持するという極めて不合理な状況を招いている。
4 国家予算配分における著しい立ち遅れと弁護士会独自の援助の限界
このような状況は、国選弁護・国選付添を積極的に受任しようとする弁護士の減少を招きかねず、担い手が確保できなくなれば、最終的に不利益を被るのは市民全体である。
弁護士会は会費を原資に、刑事記録の謄写や当事者鑑定費用などの援助制度を構築して国の予算不足を埋めてきたが、その財政には自ずと限界があり、これらは本来すべて国費で賄われるべきものである。
しかし、国家予算が115兆円から120兆円規模へと膨張する中、国選業務の予算は年間160億円前後と国家予算のわずか「0.01%台」にすぎない。他分野の予算が拡充される一方で、人権保障を支える経済的基盤は著しく立ち遅れている。
5 結論
以上の状況に鑑み、2003年の「国選弁護人の報酬引下げに反対し、大幅な増額を求める会長声明」から20年以上が経過した今、当会は、国会、政府、法務省、財務省及び日本司法支援センターに対し、司法予算全体を大幅に拡充した上で、以下の措置を速やかに講じるよう強く求める。
(1)国選弁護・付添事件の基礎報酬の実情に見合った大幅な増額
(2)各種弁護費用の全額公費化
(3)定期的かつ機動的な報酬・費用水準の見直しが可能な制度の導入
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