東京弁護士会

「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」に基づく労働者派遣制度の見直しに反対し、労働者保護のための労働者派遣法の抜本的改正を求める会長声明

2013年12月26日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎


厚生労働省に設置された有識者会議である「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」は、本年8月20日、報告書(以下「報告書」という)をとりまとめ、同月30日から、労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において、報告書をもとに労働者派遣制度の見直しに向けての議論が行われている。同年12月12日に開催された同部会において提示された「労働者派遣制度の改正について(報告書骨子案(公益委員案))」(以下「公益委員案」という)は、報告書が示す方針に沿った内容となっている。今後、政府は、来年1月にも労働政策審議会の建議を得て、来年3月には通常国会に法改正案を提出する意向であると伝えられているが、その内容も報告書及び公益委員案に沿ったものになることが予想される。
報告書および公益委員案が示す新たな派遣労働規制の在り方の概要は、①専門26業務による区分規制を廃止する、②無期雇用派遣(派遣元と派遣労働者間の雇用契約が期限の定めのないもの)について、業務に関わらず派遣期間制限を行わない、③有期雇用派遣(派遣元と派遣労働者間の雇用契約が期限の定めのあるもの)については、業務単位ではなく個人単位で同一の派遣先への派遣期間を3年を上限とする、④有期雇用派遣の受入が3年を経過するときまでに、派遣先における過半数労働組合等から意見を聴取した場合には、その後も継続して派遣労働者を受け入れることができる、というものである。
しかし、労働者の権利保護のため労働者派遣はあくまで臨時的・一時的な専門的業務について直接雇用の例外として限定的に導入されたという法制定の経緯に照らし、専門26業務による区分規制を廃止することについては賛成できない。むしろ、「事務用機器操作」、「ファイリング」等、現在ではもはや専門性が高いとは言い難い業務を除外し、真に専門的業務のみに限定する方向で見直しをすべきである。
次に、無期雇用派遣について、専門的業務以外でも無期限に派遣が可能となれば、本来は直接雇用原則の例外であるはずの派遣労働を著しく拡大させることになり、その結果安定した直接無期雇用である正社員が不安定な派遣労働者に置き換えられ、常用代替防止の原則が没却されるおそれがある。また、派遣元との関係では無期雇用であっても、派遣先は雇用責任を負うことなく労働者派遣契約を解除することができるため、派遣労働者は派遣先の都合によって仕事を奪われ、他の企業への移転や休業を余儀なくされ、派遣先が無くなったことを口実に派遣元から解雇されたり賃金の支払いを止められたりする可能性がある。このように無期雇用派遣であっても、決して安定的な雇用ではないのであるから、安易に拡大すべきではない。
また、有期雇用派遣の派遣期間制限を労働者個人単位とすれば、派遣労働者は派遣期間の上限を超えると雇用を失う一方で、派遣先は派遣労働者を変えれば永続的に派遣労働を使うことが可能となる。これによって、派遣先は、恒常的に存在する業務についても、雇用責任が明確な直接雇用の労働者ではなく、その不明確な派遣労働者を永続的に使用することが可能となり、常用代替防止の趣旨が著しく没却される。この点、歯止めとして派遣の継続受入については派遣先の過半数労働組合等の意見聴取を行うとされているが、意見を聴取すればいいだけでは、常用代替防止の実効性を持つ制度となり得るか極めて疑問である。
その他にも、報告書および公益委員案は、派遣労働の抑制と派遣労働者の地位向上のために不可欠である派遣労働者と派遣先労働者との均等待遇については具体的施策をほとんど示していないこと、派遣先の団体交渉応諾義務について労働者派遣法の範疇で対応すべきものではないとして、派遣労働者の労働条件の維持・改善のための集団的交渉の制度整備に背を向けたままであること、労働者保護の観点からなされた日雇派遣の原則禁止や労働契約申込みみなし制度などが盛り込まれた平成24年改正法の見直しについて引き続き検討するとしていることなど、多くの問題点を有している。
以上のとおり、報告書および公益委員案が示す新たな派遣制度の在り方は、派遣労働者の保護を図ることができないばかりか、例外的な間接雇用である派遣労働を著しく拡大し、ひいては労働者全体の雇用の不安定化、労働条件の低下を招くことになるおそれが強い。
当会は、2009年2月9日に「労働者派遣法の改正を求める意見書」、2010年3月8日に「労働者派遣法の抜本改正を求める会長声明」を発表し、派遣労働者保護の観点から、派遣対象業務を真に専門的な業務に限定してポジティブリスト化すること、派遣先の同種の労働者との均等待遇原則を派遣法に明記すること、派遣先が中途解約した場合の派遣先の責任を強化することなどを柱とした労働者派遣法の抜本的改正を求めてきたところである。
よって、当会は、報告書及び公益委員案に基づく労働者派遣の見直しに強く反対するとともに、2009年意見書で述べた方向性で労働者派遣法の抜本的改正を行うよう求める。

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