東京弁護士会

労働者派遣法改正案に反対し、労働者保護のための抜本的改正を求める会長声明

2014年03月27日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

1 政府は、本年3月11日、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という)を閣議決定し、同日付で今通常国会に上程した。政府は、今通常国会での成立を目指している。
当会は、昨年12月12日労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において提示された「労働者派遣制度の改正について(報告書骨子案(公益委員案))」に対して、同年12月26日付で「『今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書』に基づく労働者派遣制度の見直しに反対し、労働者保護のための労働者派遣法の抜本的改正を求める会長声明」を発し、同報告書及び公益委員案に基づく労働者派遣法の見直しに強く反対するとともに、派遣労働者保護のための労働者派遣法の抜本的改正を求めた。ところが、今般国会上程された改正案は、基本的に同報告書及び公益委員案ならびに本年1月29日に取りまとめられた同審議会建議「労働者派遣制度の改正について」に沿ったものであり、常用代替防止の理念を事実上放棄し、派遣労働者のみならずわが国の労働者全体の雇用の安定を脅かし労働条件の低下を招来しかねないものであって、到底容認できない。

2 改正案は、①専門26業務による区分や業務単位での派遣期間制限を廃止し、②無期雇用派遣(派遣元と派遣労働者間の雇用契約が期限の定めのないもの)や60歳以上の派遣労働者等については業務に関わらず派遣期間制限から除外し、③有期雇用派遣(派遣元と派遣労働者間の雇用契約が期限の定めのあるもの)についても、「同一の組織単位」における同一の派遣労働者の派遣期間の上限を3年としつつ、派遣先が3年毎に過半数労働組合等から意見を聴取すれば同一の事業所においてその後も継続して派遣労働者を利用できるとすることとし、結局のところ派遣先は、同一の事業所において「同一の組織単位」であれば派遣労働者を入れ替えることにより、組織単位が異なれば同一の派遣労働者でも永続的に、派遣労働を利用することが可能となる。
現行法制度においては、雇用と使用が分離される間接雇用は労働者の地位を不安定にし労働基準法等に定める雇用主の責任を曖昧にするなどの弊害があることから、労働者の権利保護の観点から直接雇用が原則とされており、間接雇用の一形態である労働者派遣はあくまで直接雇用の原則の例外に過ぎない。そのため、従来労働者派遣は、常用代替防止の理念の下、あくまで臨時的・一時的な専門的業務について限定的に認められてきたのである。
ところが、上記①ないし③の改正がなされるならば、過半数代表者の意見聴取による歯止めの実効性が著しく欠けているわが国の現状においては、無期雇用派遣のみならず有期雇用派遣についても派遣労働の完全自由化を認めるに等しく、専門的業務に限らず派遣先に恒常的に存在する業務についても派遣労働の恒常的利用が拡大し、その結果安定した直接無期雇用である正社員が不安定な派遣労働者に置き換えられ、常用代替防止という理念は完全に有名無実化することは明らかである。

3 また、派遣労働者の処遇改善においても、ヨーロッパでは「派遣期間中の派遣労働者の基本的雇用労働条件は、同一職務に派遣先によって雇用されていれば適用されたものを下回らない」との均等待遇原則が広く認められているが、改正案は、派遣元に「均衡待遇」の配慮義務を課し、派遣先には「均衡待遇」のための努力義務を指針に規定することなどを求めるに過ぎず、さらに教育訓練や福利厚生についての派遣元もしくは派遣先の義務も軒並み努力義務や配慮義務としており、実効性ある処遇改善策とは到底評価できない。
しかも、派遣元の派遣期間の上限に達した有期雇用派遣の派遣労働者に対する新たな就業機会(派遣先)の提供、派遣元での無期雇用、教育訓練などの雇用安定措置についても、派遣元がこれら措置を講じない場合の私法上の効力は明確ではなく、雇用安定措置としての実効性を欠く。
なお、派遣労働者の労働条件の維持・改善のための集団的交渉の制度整備は何らなされていない。

4 以上のとおり、改正案は、派遣労働者の保護を図ることができないばかりか、例外的な間接雇用である派遣労働を著しく拡大し、すでにわが国労働者の4割に達しようとしている非正規雇用労働者をますます増大させ、労働者全体の雇用の不安定化、労働条件の低下を招くことになるおそれが強い。
当会は、2009年2月9日に「労働者派遣法の改正を求める意見書」、2010年3月8日に「労働者派遣法の抜本改正を求める会長声明」を発表し、派遣労働者保護の観点から、派遣対象業務を真に専門的な業務に限定してポジティブリスト化すること、派遣先の同種の労働者との均等待遇原則を派遣法に明記すること、派遣先が中途解約した場合の派遣先の責任を強化することなどを柱とした労働者派遣法の抜本的改正を求めてきたところである。
 よって、当会は、改正案に強く反対するとともに、上記で述べた方向性での労働者派遣法の抜本的改正を行うよう求める。

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