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セクシュアル・マイノリティと刑事収容施設における課題について(2022年1月21日号)
セクシュアル・マイノリティに関する課題の一つに、刑事収容施設におけるトランスジェンダー被収容者の問題があります。
一般に、割り当てられた性別と自認する性別が異なるトランスジェンダーの方には、様々な理由で法令上の性別変更手続を経ていない方も少なくありません。
しかし、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は、被収容者を「性別」に従って分離すると定めており、実際には、戸籍上の性別に従って分離収容されています。そのため、法令上の性別変更手続を経ていないトランスジェンダー被収容者の場合には、自認する性別と異なる性別の集団の中で収容生活を送ることとなり、居室、入浴、身体検査、運動など様々な場面で他の被収容者と区別した扱いが求められます。
例えば、居室について、廊下に監視カメラの整備されている区域の居室へ収容する、入浴や身体検査の際には配置職員の性別に配慮し、なるべく他の被収容者と接触させずに単独で行う、つい立を設置するなど、他の被収容者と異なる扱いの余地が認められていますが、外形変更済みの者であることが区別の基本的な基準とされている点が問題として指摘されています(法務省矯正局成人矯正課長及び矯正医療管理官連名通知「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について」(通知)(2011年6月1日付け)及び「『性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について』の一部改正について」(通知)(2015年10月1日付け)参照)。
また、調髪について男子受刑者には原型丸刈り、前五分刈り又は中髪刈りとの定めがあり、下着の使用の可否については男子受刑者には一定の女性用下着の使用は認められていないなど、男女で制限が異なるものもあり、やはりトランスジェンダー被収容者の場合には、個別の事情に応じて他の被収容者と異なる扱いの余地が認められていますが、海外では、そもそも調髪や下着の種類について制限がない国もあるようですので、男女で制限に差異があること、さらには制限そのものについて再検討すべきとも考えられます(以上、矢野恵美「トランスジェンダー受刑者の処遇-特例法と刑事収容施設法」ジェンダー法研究第5号(2018年12月)155頁以下参照)。
さらに、ホルモン治療については、特に必要な事情が認められない限り、国の責務として行うべき医療上の措置の範囲外とされ、実際には、自費治療でも自由に受けられない状態であるとの報告がなされていますが(2021年度 関東弁護士連合会シンポジウム報告書・465頁以下参照)、ホルモン治療を必要とするトランスジェンダーにとって、治療の中断は心身の大きな不調につながりかねません。東京拘置所は、自費治療でもホルモン剤投与を認めない理由について、「ホルモン剤の投与はあくまで性同一性障がい者であるという自己認識を充足させるものにすぎず」、「本人の健康保持上必要不可欠なものとは言い難」いと説明していることから(東京弁護士会2016年8月31日(勧告)参照)、問題の根底に、トランスジェンダーについて十分に理解されていない実態がうかがわれます。
日本弁護士連合会も人権救済申立事件において、「性自認に沿った取扱いを求める権利は、憲法第13条の個人の尊厳から導かれる人権として認められるべきである」と明言しているとおり(2009年9月17日勧告)、トランスジェンダーが抱える性自認に関する問題は人権にかかわる問題であり、トランスジェンダーに対する社会全体の十分な理解が求められる問題です。刑事収容施設においては、不十分な理解のゆえに生じる問題が一層浮き彫りになる面があることを踏まえ、社会全体の課題として注視していく必要があるものと言えます。