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性の平等に関する委員会

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同性パートナーの在留資格(2022年12月9日号)

ある人とある人、さらにはその子どもや親などが家族として一緒に生活するためには、その国の国籍や在留資格が必要になります。国籍も在留資格が無い人は、それが有る人たちを残してその国を去るか、国外への退去を強制されるかということになります。その国に残っても在留資格もない不安定な地位に置かれることになります。

2022年9月30日、米国で日本人男性と法的に結婚した米国籍の男性が、配偶者であることを前提にした在留資格を求めた訴訟において、東京地方裁判所は、外国人同士の同性婚のときは他方配偶者に「特定活動」の在留資格を与えているのにもかかわらず、日本人と結婚した外国人配偶者にはそれを与えない国の運用は「憲法の平等原則の趣旨に反する」と指摘して、「男性に特定活動の資格を認めなかったのは違法だった」と判断しました。

現在、日本国籍を持たない者が日本に在留をするためには出入国管理及び難民認定法が定めるいずれかの在留資格をもっていることが必要です。

在留資格としては、まずいわゆる別表第1のグループの(1)外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、(2)高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、特定技能、技能実習、(3)文化活動、短期滞在、(4)留学、研修、家族滞在、(5)特定活動があります。これらの在留資格を持つものは、それぞれごとに「本邦において行うことができる活動」が定められています。収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動についても制限があります。

別表第2のグループの在留資格は、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者の4つです。それぞれごとに「本邦において有する身分又は地位」が定められています。たとえば、日本人の配偶者等が日本において有する身分又は地位は、「日本人の配偶者若しくは特別養子又は日本人の子として出生した者」です。こちらの在留資格には、就労の制限はありません。もっとも、ここで日本人の配偶者と認められたとしても、それは在留資格の関係での事にとどまります。たとえば、家庭裁判所の手続で、2人が婚姻しているかどうかは、裁判所の手続において、法の適用に関する通則法などの国際私法を適用して決めるべき問題であって、出入国管理及び難民認定法の関係での手続きで在留資格がどうなっているかで違いが生じる問題ではありません。

日本の政府は、現在のところ、法律上同性の者については、たとえ外国で婚姻をしていても、家族滞在や日本人の配偶者等の在留資格を認めていません。

双方が外国国籍の人たちが婚姻しているときには、そのうち1人がある在留資格をもっているならば、他方は家族滞在の在留資格によって在留することが、2人が法律上の異性であるときには可能です。しかし、その人たちが同性であるときには、日本の政府は家族滞在の在留資格を認めていません。

また、婚姻している人のうち片方が日本国籍で他方が外国国籍のみのときには、外国国籍の人は日本人の配偶者等の在留資格によって在留することが、2人が異性であるときには、可能です。しかし、その人たちが同性であるときには、日本の政府は日本人の配偶者等の在留資格を認めていません。

このうち、双方が外国国籍の人たちが婚姻していて、その2人が同性であるときには、特定活動で在留することが可能です。法務省入国管理局入国在留課長による通知(2013年10月18日法務省管在第5357号)は、「家族滞在」(出入国管理及び難民認定法別表第1の4の表)や「永住者の配偶者等」(同別表第2)にいう「配偶者」は、日本の婚姻に関する法令において有効なものとして取り扱われる婚姻の配偶者であり、外国で有効に成立した婚姻であっても同性婚による配偶者は含まれないとしつつ、外国で有効に成立した同性婚における配偶者が「特定活動」の在留資格で滞在することは原則として認められるとしています。

ところが、この特定活動を認めるという道すらも婚姻当事者が日本国籍と外国国籍のみの2人の場合には認められてきていませんでした。したがって、この場合、外国国籍の人が何か他に在留資格を得ていなければ、日本で一緒に暮らすことは不可能です。

最初に、自ら訴訟を提起して在留資格を認められるべきことを求めたのは台湾人のG氏でした。台湾籍のG氏は日本国籍のパートナーと23年間同居していたのですが、在留資格を失っていたために、退去強制令書発布処分を受けました。G氏は在留特別許可も求めたが許可はなされませんでした。2017年3月に、在留特別許可を得るべく、東京地方裁判所に退去強制令書発付処分等取消請求訴訟を提起しました。原告当事者尋問・パートナーの証人尋問も終わった後、2019年3月、裁判所の勧告を受けて、国が当該同性パートナーの在留特別許可を認めるに至りました。もっとも、在留資格は日本人の配偶者等ではなくて、定住者でした。

この後、数件の同様の訴訟が続きました。この9月30日の東京地方裁判所の判決では、平等原則の観点からの判断がありました。ここでは、同じく同性で(外国で)婚姻している当事者であるけれども、一方で、双方外国国籍のみを有する者の場合、他方で、日本国籍のある者と外国国籍のみの者の場合がどうなるかを比較しています。前者の場合なら特定活動の在留資格がありえるが、後者の場合にはそうではないという違いが確かにあります。この違いを論じている点は、たしかに良いという意見もあるところです。とはいっても、本来、比較すべきは、同じく日本国籍のある者と外国国籍のみの者が婚姻している場合でありながら、両当事者が異性であれば、日本人の配偶者等の在留資格があるのに対して、他方の当事者が同性であれば、日本人の配偶者等の在留資格がありえないという点です。いずれも生活実態は同じであり、いろいろなことを毎日あれこれと経験しながら日々を過ごしていることに変わりはありません。楽しいこと、悲しいこと、人によっては腹の立つことなどがあるわけです。在留資格について異なる取り扱いをするに値する違いを見出せません。東京弁護士会は、2021年に、「同性カップルが婚姻できるための民法改正を求める意見書」を発表しています。この意見書での判断枠組みにならって言えば、この在留資格についての取り扱いの違いは、人の性的指向を理由とするものであるから、特別の強い正当化事由がなければ許されないところ、そのような事由はみあたらず、この異なる取り扱いは平等原則に反しています。よって、婚姻している人のうち片方が日本国籍で他方が外国国籍のみのときには、両当事者の性別の組み合わせがどうなっているかに関わらず、日本人の配偶者等の在留資格が認められるべきであると考えられます。在留資格を得ていることは民法上の家族の法律関係において法的効果の発生・変動・消滅を何ら生じさせないものですから、以上のように考えることは、現在の民法は法律上同性の当事者の婚姻を認めていないと解釈することと十分に両立しうるはずです(もっともそれは不可能であり両立しないとの前提を日本政府はとっているようにも見えます。)。

根本的に重要なことを述べると、同じひとつの婚姻という制度を当事者の性別にかかわりなく利用できるようにすることが憲法13条で確認されている婚姻の自由や憲法14条の確認する法の下の平等の求めているところです。

2022年11月30日、東京地方裁判所は、同性の当事者に婚姻を認めていないことについての損害賠償請求を求めた事件において、「同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」と判断しました。2021年3月の札幌地方裁判所の平等原則違反との判断、2022年6月の大阪地方裁判所の憲法違反は認められないとの判断につづいての判断です。この判断も東京弁護士会の発表した意見とは大きな隔たりがありますが、司法が適切に役割を果たす方向での判断として評価する意見もあります。

冒頭の9月30日の東京地方裁判所の判決に対し、原告は控訴しています。今後の取組次第では、高裁の審理を待たずに「特定活動」の在留資格が付与される可能性もありますが、今後の動向に注視し、このコラムでも取り上げていきます。

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