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第18回「古くて新しい憲法のはなし⑦「有権者」って誰だ~国民主権をめぐって~」2022年6月号)

弁護士 津田二郎(東京弁護士会憲法問題対策センター事務局長)
「有権者」って誰だ~国民主権をめぐって~

1 参議院選挙が始まります
2022年の通常国会が閉会し、6月22日に参議院選挙が公示されました(7月10日投票)。選挙権は、18歳以上の日本国民にあるとされます。この選挙権のある人のことを「有権者」といいます。

2 「有権者」って誰だ
日本では、戦前の1890年に25歳以上の男子で、直接国税15円以上を納付している者に限って選挙権を認めました。このとき有権者は人口比でわずか1.1%に過ぎませんでした。選挙権行使の資格に年齢以外の要件があることを「制限選挙」といいます。1902年に25歳以上男子で、直接国税10円以上を納付している者に有権者の資格が緩和されました。人口比では2.2%と数字の上では倍増しましたが、有権者数はきわめてわずかでした。1920年、さらに25歳以上の男子で直接国税3円以上を納付する者とさらに緩和されたものの人口比では5.5%に過ぎませんでした。そして、1928年、改正治安維持法と引き換えにされた選挙法の改正によって、25歳以上の男子なら誰でも有権者になれることとなりました。男子であれば年齢以外に制限がなくなったので「男子普通選挙権」といいます。この男子普通選挙権によって人口比は19.8%と有権者の比率が飛躍的に増えました。
戦後になって1946年、20歳以上男女の普通選挙権が実現し、女性にも参政権が認められました。人口比では48.7%となりました。
そして21世紀に入った2016年には18歳以上男女の普通選挙権が実現し、人口比は83.3%と有権者が全人口の大多数を占めるに至りました。

3 「法律によらずに」日本国籍を奪われた人たち
ところで、憲法は第10条で日本国民の要件は法律で定めるとしています。ここで説明した有権者はいずれも「日本国籍を有する者」を前提としています。
日本は日清戦争後の1895年から台湾を統治し、また日韓併合(1910年)を契機に朝鮮も統治するようになりました。その結果、台湾人にも朝鮮人にも強制的に日本国籍が付与されました。そして朝鮮・台湾から生活の拠点を日本に移した台湾人・朝鮮人が多くいました。戦前の有権者には、これらの人たちも含まれています。
ところが太平洋戦争敗戦後、日本は、衆議院議員選挙法(1945年改正)、参議院議員選挙法(1947年)、地方自治法(同)、公職選挙法(1950年)の各附則で台湾人・朝鮮人への適用を除外して参政権を奪い、「外国人登録令」(1947年)でそれまで日本人として扱ってきた台湾人・朝鮮人を「当面の間、外国人とみなす」こととしました。
そして日本は、サンフランシスコ講和条約の締結(1951年)を契機に「平和条約の発効に伴う朝鮮人、台湾人に関する国籍及び戸籍事務の処理について」という法務府(現・法務省)民事局長の通達で、「朝鮮人及び台湾人は、内地に在住している者も含めてすべて日本の国籍を喪失する」こととしました。日本に生活の拠点を置き日本人同様に生活していた朝鮮人・台湾人は、その意思によらずに、さらには法律の定めもなしに強制的に剥奪されてしまったのです。
この措置は、日本同様に第二次世界大戦の敗戦国だったドイツが、ドイツ在住のオーストリア人に対して、領土帰属の変更に伴い個人の意思でドイツ国籍を選択できるようにしたこととは対照的です。

4 有権者として多くの人たちとつながりあえる社会を作ろう
このように、日本には、日本で日本人同様の生活をしていたのに選挙権を奪われた人たちやその子孫が多く存在しています。この人たちは選挙を通じて自分の地位を回復・向上させることができません。
「国民主権」とは、国のあり方を国民が決めることができることですが、自分の意思によらずに選挙での意思表示の機会を一方的に奪われてしまった方がいることにも思いをいたすべきです。
憲法は前文で「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」しています。在日の台湾人・朝鮮人から日本国籍を剥奪した日本の対応は、残念ながら「諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保」したとは言いがたいように思います。これからの社会を作り生きる私たちは、誰かを仲間はずれにする国のあり方ではなく、広い視野を持ってより多くの人たちとつながりあえる社会のあり方を模索すべきではないでしょうか。
選挙は、有権者がどのような国作りをしたいのかの意思を表明する絶好の機会です。この機会を逃さず、広くつながりあう社会を実現できそうな候補者、政党に思いを託しましょう。なお外国人にも選挙権や住民投票への参加を認めるという考え方があり、住民投票については既に認めている地方公共団体もありますが、この点については別の機会に。

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