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- コラム「憲法の小窓」
- 第33回「古くて新しい憲法のはなし⑫ 外国人と人権~外国籍と日本国籍とで人権保障に差を設けてよいのか~」(2024年8月号)
- 第32回「『軍事化とジェンダー』を考える ~四会憲法記念シンポジウムの報告~」(2024年7月号)
- 第31回「古くて新しい憲法のはなし⑪ 死刑制度と憲法」(2024年3月号)
- 第30回 映画「オッペンハイマー」と核兵器について(2024年2月号)
- 第29回「日本の憲法の問題点」(2024年1月号)
- 第28回「先島諸島を訪問しました」(2023年12月号)
- 第27回「古くて新しい憲法のはなし⑩ 労働者は団結することによって守られる~ストライキと憲法~」(2023年11月号)
- 第26回 「関東大震災百年に思う」(2023年9月号)
- 第25回「古くて新しい憲法のはなし⑨ 多数決と憲法」(2023年7月号)
- 第24回 「坂本龍一さんと日本国憲法」(2023年6月号)
- 第23回 「憲法とSDGs」(2023年2月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編①)(2023年1月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編②)(2023年1月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編➂)(2023年1月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編①)(2022年12月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編➁)(2022年12月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編③)(2022年12月号)
- 第20回「憲法の本質と緊急事態条項」(2022年9月号)
- 第19回「古くて新しい憲法のはなし⑧ 選挙の楽しみ方~有権者としての「特権」を生かそう~」(2022年7月号)
- 第18回「古くて新しい憲法のはなし⑦「有権者」って誰だ~国民主権をめぐって~」2022年6月号)
- 第17回「古くて新しい憲法のはなし⑥ 憲法9条はお花畑か。」2022年5月号)
- 第16回「古くて新しい憲法のはなし⑤ 生活の中で憲法を使って生きてみませんか。」(2022年5月号)
- 第15回「グレーゾーン事態というグレーな領域でのグレーな試論」(2022年4月号)
- 第14回「ウクライナは憲法に何を語りかけているか」(2022年4月号)
- 第13回「古くて新しい憲法のはなし④ ロシアのウクライナ侵攻と日本国憲法」(2022年3月号)
- 第12回 武蔵野市住民投票条例案について(2022年2月号)
- 第11回マイナンバーカード普及推進の問題点(2022年1月号)
- 第10回「古くて新しい憲法のはなし③「大人になる」ってどういうこと?」(2022年1月号)
- 第9回 東アジアを巡る国際情勢の変化と日本人の戦争意識(2021年12月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度①(2021年10月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度②(2021年10月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度③(2021年10月号)
- 第7回 ワクチン接種者に対する優遇措置について(2021年10月号)
- 第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて①(2021年9月号)
- 第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて➁(2021年9月号)
- 第5回 演劇「あたらしい憲法のはなし3」が2021年9月10日~12日まで東京芸術劇場で開催されます(2021年9月号)
- 第4回「公益と憲法~映画助成金裁判と表現の自由~」(2021年8月号)
- 第3回「古くて新しい憲法のはなし② 憲法に書いてあることは「理想」なの? 」(2021年7月号)
- 第2回「古くて新しい憲法のはなし① 憲法って何だろう」(2021年7月号)
- 第1回「憲法はあなたを守っているのか」(2021年5月号①)
- 第1回「憲法はあなたを守っているのか」(2021年5月号②)
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第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編①)(2023年1月号)
弁護士 眞珠浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編①)
昨年末、「2022年公開の映画で考える憲法と人権」の国内編をお届けしましたが(2022年12月号)、今回は国際編です。戦争に異を唱えるだけで逮捕、拷問、更には殺害までされてしまうというロシア、多くの人々の住居・電気・水道など生存の基礎さえ破壊され続けているウクライナ、タリバンの実権の下、女子の大学教育が停止されたアフガニスタン等に限らず、世界の人権状況はますます厳しさを増しています。
憲法で人々の権利や自由を定めていても、絵に描いた餅に過ぎず、実態は権力者のやりたい放題という国も少なくありません。しかし、憲法は単なる飾りや建前ではなく、市民の権利・自由を保障するために国家権力を制限する法規範であり(立憲主義)、権力者が憲法を遵守しているか、不断の監視が必要です。幾つかの映画を通して、世界の人権状況と憲法について考えてみませんか。
1【ロシア、ウクライナ】ロシア・ウクライナ戦争とそれに至る歴史
「親愛なる同志たちへ」「ナワリヌイ」「ドンバス」「ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜」「リフレクション」「アトランティス」
2022年2月24日、ロシアは、国際法に違反して、ウクライナに対する侵略戦争を始めました。間もなく1年が経とうとする2023年1月現在においても、戦争の終結時期は見通せず、犠牲者は増え続けています。何故このような事態になってしまったのでしょうか、歴史を遡ってみましょう。
(1) まずはロシアです。「親愛なる同志たちへ」は、1962年6月2日、スターリン没後のソ連で起こった虐殺事件「ノボチェルカッスク事件」を描いた作品です。ストライキを行った工場労働者や市民に対し、当局は戦車を出動させて無差別に銃撃、多数の死傷者を出しましたが、その事実はソ連崩壊まで約30年も隠蔽されていました。権力に異議を申し立てる自国民を容赦なく弾圧する強権体質は、ウクライナ戦争に反対する市民への弾圧と同根です。ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞受賞。「ナワリヌイ」は、プーチン批判の急先鋒として知られ、モスクワ市長選にも立候補した弁護士で野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏についてのドキュメンタリーです。2020年8月、下着にロシアの毒物「ノビチョク」を塗られた同氏は移動中の飛行機の中で昏睡状態になったものの、奇跡的に一命を取り止め、ドイツに移送されて治療を受けたことが国際的なニュースになりました。同氏はドイツでの治療によって健康を回復しましたが、その後帰国したモスクワの空港で逮捕された後、詐欺罪の名目で有罪判決を受け、現在もロシア西部の刑務所に収監されています。同氏は獄中から、その処遇について「1時間おきに起こされる」「ここにいたら殺されてしまう」と訴えています。映画の中で、同氏がドイツ滞在中、毒物を使った相手を電話で突き止めていく場面はスパイ映画のようで痛快ですが、その後の経過からすると、同氏が刑務所で人権を保障されて適正な処遇を受けているのか、その安全が強く懸念されます。
(2) 次はウクライナです。「ドンバス」は、ウクライナ出身の監督が、ウクライナ東部の「ドネツク州」「ルハンスク州」(併せて「ドンバス地方」)で起こったと見聞きした無法な「ありえない」話を、13のエピソードとして描いた作品です。2014年4月、ドンバス地方のドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国は一方的にウクライナからの独立を宣言し、それ以来親ロシア派勢力によって支配されてきましたが、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻はその延長線上にあります。世界がもっとこのドンバス地方の実情と2014年の3月に起こったクリミア併合に厳しく対応していたら、今のような戦争には至らなかったかもしれません。カンヌ国際映画祭<ある視点>部門・監督賞受賞。「ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜」は、スロバキア出身の監督が、ドンバス地方及びキーウ等の住民の声を記録したドキュメンタリーです。2014年以降、ドンバス地方では激しい戦闘が続いており、当時から住民は親ウクライナ派と親ロシア派とに分かれて対立し、大きな犠牲が生じていたことが分かります。監督の言うように「21世紀になっても人は戦争をしたい」のでしょうか。「リフレクション」「アトランティス」は、一人のウクライナ人監督による連作で、前者はドンバス地方で捕虜になった医師が、戦場の地獄を体験しながら、それでも生き抜こうとする再生の話、後者は戦争が終わったと仮定した2025年の同地方において、主人公が戦争のトラウマに苦しみつつも、ボランティアとして活動する中で希望を見出していく話です。両作品とも悲惨で過酷な内容を描きつつ、長回しのカメラによる詩的な美しい映像が強い印象を残します。