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第8回 憲法学と選挙制度①(2021年10月号)

弁護士 棚橋桂介(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)

来る2021年10月31日は、衆議院議員総選挙の投票日です。
この機会に、憲法学の観点から日本の選挙制度を眺めてみましょう。

今回行われる衆議院議員総選挙は、衆議院議員の全員を選ぶために行われる選挙で、小選挙区選挙と比例代表選挙が同じ投票日に行われます。
総選挙は、衆議院議員の任期満了(4年)によるものと、衆議院の解散によって行われるものの2つに分けられますが、今回は、任期満了が10月21日に迫る中、同月14日に衆議院が解散されたため、分類としては後者になります。

衆議院議員の定数は465人で、うち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員です。
小選挙区制とは、各選挙区から1人の議員のみを選出する制度です。289人が小選挙区選出議員ということは、小選挙区制度では、全国が289の選挙区に分かれているということになります。なお、小選挙区制と対になる概念が大選挙区制で、これは、各選挙区から2人以上の議員を選出する制度です。
比例代表制とは、得票数に比例した数の代表を各党派が獲得する制度です。衆議院議員総選挙の比例代表選挙においては、全国が北海道、東北、北関東、南関東、東京都、北陸信越、東海、近畿、中国、四国、九州の11の選挙区(ブロック)に分かれ、それぞれの選挙区の中で得票数に比例した議席の配分が行われます(各選挙区別定数等については、総務省のウェブサイト等をご参照ください)。

参議院議員の選挙についても軽く見ておきましょう。
参議院議員通常選挙は、参議院議員の半数を選ぶための選挙です。
参議院に解散はありませんから、常に任期満了(6年)によるものだけですが、参議院議員は3年ごとに半数が入れ替わるよう憲法で定められていますので、3年に1回、定数の半分を選ぶことになります。
参議院議員の定数は248人で、うち100人が比例代表選出議員、148人が選挙区選出議員です。
従って、1回の選挙で改選されるのは124人、うち50人が比例代表選出議員(全国集計の非拘束名簿式比例代表制により選出されます)、74人が選挙区選出議員(選挙区は原則として各都道府県ごととなりますが、鳥取県と島根県、徳島県と高知県は、それぞれ2県の区域が選挙区となります)です。

上記のとおり、現在の日本の選挙制度はなかなか複雑ですが、最初からこのような仕組みだったわけではありません。
衆議院の選挙制度は、1947年の衆議院議員選挙法改正以降、1994年の公職選挙法の改正に至るまで、大選挙区単記制(中選挙区制といわれることもあります)を採用していました。これは、各選挙区で3人ないし5人の議員を選出するが、有権者は1人の候補者についてのみ投票しうるという制度でした。単記制とは、1選挙区から選出する議員定数の多少に拘わらず、選挙人に投票用紙に候補者1人を記載させる方法です。対になるのが連記制で、これは、大選挙区制において、選挙人に投票用紙に2人以上の候補者を記載させる方法です。

この制度は、事実上、比例代表制とほぼ同じ程度の代表の正確さをもたらしますが、他方、この制度のために、同一政党内で複数の候補者が対立することとなり、政党内部の政策的統一を困難にするとともに、政党内部の派閥形成の一因をなし、また選挙費用を増大させるとされ、そのため、1994年の公職選挙法改正で、小選挙区比例代表並立制が採用されることとなりました。

参議院の選挙制度は、憲法制定当初は、全国を1選挙区とした単記投票制による全国区選挙と、都道府県を選挙区とした単記選挙区制による選挙区選挙(地方区)という仕組みでした。その後、全国区選挙について、費用がかさむ、知名度の高い「タレント候補」に有利に働くといった批判がなされ、1982年には全国区制に代えて拘束名簿式比例代表制が採用され、さらに政党ではなく候補者本人に投票したいとの世論を反映して2000年には拘束名簿式から非拘束名簿式の比例代表制になっています。

第8回 憲法学と選挙制度②へつづく⇒

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