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- コラム「憲法の小窓」
- 第23回 「憲法とSDGs」(2023年2月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編①)(2023年1月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編②)(2023年1月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編➂)(2023年1月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編①)(2022年12月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編➁)(2022年12月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編③)(2022年12月号)
- 第20回「憲法の本質と緊急事態条項」(2022年9月号)
- 第19回「古くて新しい憲法のはなし⑧」(2022年7月号)
- 第18回「古くて新しい憲法のはなし⑦」(2022年6月号)
- 第17回「古くて新しい憲法のはなし⑥」(2022年5月号)
- 第16回「古くて新しい憲法のはなし⑤」(2022年5月号)
- 第15回「グレーゾーン事態というグレーな領域でのグレーな試論」(2022年4月号)
- 第14回「ウクライナは憲法に何を語りかけているか」(2022年4月号)
- 第13回「古くて新しい憲法のはなし④」(2022年3月号)
- 第12回 武蔵野市住民投票条例案について(2022年2月号)
- 第11回マイナンバーカード普及推進の問題点(2022年1月号)
- 第10回「古くて新しい憲法のはなし③」(2022年1月号)
- 第9回 東アジアを巡る国際情勢の変化と日本人の戦争意識(2021年12月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度①(2021年10月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度②(2021年10月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度③(2021年10月号)
- 第7回 ワクチン接種者に対する優遇措置について(2021年10月号)
- 第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて①(2021年9月号)
- 第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて➁(2021年9月号)
- 第5回 演劇「あたらしい憲法のはなし3」が2021年9月10日~12日まで東京芸術劇場で開催されます(2021年9月号)
- 第4回「公益と憲法~映画助成金裁判と表現の自由~」(2021年8月号)
- 第3回「古くて新しい憲法のはなし②」(2021年7月号)
- 第2回「古くて新しい憲法のはなし①」(2021年7月号)
- 第1回「憲法はあなたを守っているのか」(2021年5月号①)
- 第1回「憲法はあなたを守っているのか」(2021年5月号②)
- 憲法出前講座
- 活動内容
第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編③)(2022年12月号)
弁護士 眞珠浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
2022年公開の映画で考える憲法と人権
5 教科書検定と学習権 「教育と愛国」
近年、政府は歴史教科書への検定を強化してきましたが、特に第2次安倍政権下においては、教科書検定基準が改訂され、歴史教科書への国家的統制が強められました。2022年3月には、高校の歴史教科書中の、日本が「多数の朝鮮人を強制連行した」「朝鮮人を工場や炭鉱などに連行して」といった表現について「政府の統一的な見解に基づいた記述がされていない」との検定意見がつきました。これに対して教科書会社は、「強制連行」という表現を「強制的に動員」と直したり、「朝鮮人や占領下の中国人も、日本に連行されて」との記述のうち、朝鮮人について「徴用」と言い換えたりすることを余儀なくされました。
「教育と愛国」は、このような教科書検定の強化と政府見解の強制を巡るドキュメンタリーです。本作品の中で、上記のような検定に賛成する立場の学者は、従来の教科書の記述を「自虐史観」、「日本人として誇りを持てないような記述」であると非難します。しかし、日本国憲法第26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と規定しているところ、この規定の背後には、「国民各自が,一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利」(学習権)を有するとの観念が存在すると解されています(旭川学テ事件最高裁判決)。歴史学として確定した事実を歪め、自国にとって不都合な歴史を書き換えようとする立場を歴史修正主義と言いますが、日本にとって都合のいいことだけを教え、不都合な真実を隠そうとする教育では、子どもたちは歴史を正しく認識し、歴史から学んで将来の教訓とすることができません。そのような教育では、子どもたちの学習権が満たされているとは言えないでしょう。教科書は本来、日本人が誇りを持てる内容になっているかどうかによって記述が決められるべきではなく、直視したくないような負の歴史、不都合な真実を含めて、ありのままの歴史的事実を客観的に記述すべきもののはずです。
如何でしたでしょうか。比較的時間のある年末年始、心身を休めると共に、このような映画の鑑賞を通じて、人権と憲法を巡る現状とあるべき社会について考えてみるのも良いのではないでしょうか。それでは、良い年をお過ごし下さい。