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第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編③)(2022年12月号)

弁護士 眞珠浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
2022年公開の映画で考える憲法と人権

5 教科書検定と学習権 「教育と愛国」
近年、政府は歴史教科書への検定を強化してきましたが、特に第2次安倍政権下においては、教科書検定基準が改訂され、歴史教科書への国家的統制が強められました。2022年3月には、高校の歴史教科書中の、日本が「多数の朝鮮人を強制連行した」「朝鮮人を工場や炭鉱などに連行して」といった表現について「政府の統一的な見解に基づいた記述がされていない」との検定意見がつきました。これに対して教科書会社は、「強制連行」という表現を「強制的に動員」と直したり、「朝鮮人や占領下の中国人も、日本に連行されて」との記述のうち、朝鮮人について「徴用」と言い換えたりすることを余儀なくされました。
「教育と愛国」は、このような教科書検定の強化と政府見解の強制を巡るドキュメンタリーです。本作品の中で、上記のような検定に賛成する立場の学者は、従来の教科書の記述を「自虐史観」、「日本人として誇りを持てないような記述」であると非難します。しかし、日本国憲法第26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と規定しているところ、この規定の背後には、「国民各自が,一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利」(学習権)を有するとの観念が存在すると解されています(旭川学テ事件最高裁判決)。歴史学として確定した事実を歪め、自国にとって不都合な歴史を書き換えようとする立場を歴史修正主義と言いますが、日本にとって都合のいいことだけを教え、不都合な真実を隠そうとする教育では、子どもたちは歴史を正しく認識し、歴史から学んで将来の教訓とすることができません。そのような教育では、子どもたちの学習権が満たされているとは言えないでしょう。教科書は本来、日本人が誇りを持てる内容になっているかどうかによって記述が決められるべきではなく、直視したくないような負の歴史、不都合な真実を含めて、ありのままの歴史的事実を客観的に記述すべきもののはずです。

如何でしたでしょうか。比較的時間のある年末年始、心身を休めると共に、このような映画の鑑賞を通じて、人権と憲法を巡る現状とあるべき社会について考えてみるのも良いのではないでしょうか。それでは、良い年をお過ごし下さい。

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