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第8回 憲法学と選挙制度③(2021年10月号)

弁護士 棚橋桂介(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)

このように見てくると、衆議院議員総選挙における小選挙区比例代表並立制という現在の制度は、それが最善といえるかはともかく、また一票の較差の問題について選挙区割りについては改善が必要であること等を措くならば、それなりに考えられた制度であり、有権者がそれぞれの選挙制度の特質を踏まえた投票行動をとるということを前提とするならば、不合理で全く話にならないようなものとまではいえないでしょう。
逆に言うと、中間層の有権者が投票に行かないなど、有権者が適切な投票行動をとらなければ、制度の問題点が表面化することになるわけで、有権者としての責任は重いといえるでしょう(憲法学説の支配的見解は、選挙権を、各国民に与えられる権利であるとともに国家機関たる公務員の選挙という公務に参与する責務として捉えています)。

ところで、ここまで長々と書いてきたことを最後に覆すようですが、私自身は、日本の社会においては多数派と少数派が入替え困難な形で固定化されており、小選挙区制の弊害を無視できなくなっていること、昨今の政治家には、選挙で選ばれたのだから何をしてもよいという風潮が見られ、全国民の代表であるという意識が欠落しているように思われること等から、選挙とは異なる形での代表の選出、具体的には、選挙に代えて、あるいは選挙と組み合わせる形で、抽選制(くじ)を利用するという方法を真剣に検討すべきではないかという考えを持っています。
この点について、法哲学者の瀧川裕英教授が大変興味深い論文[1])を発表しておられますので、ご紹介しておきます。

将来における抽選制の導入や現行の選挙制度の改善についてはともかくとして、いざ選挙が行われるという段階においては、現行の選挙制度を前提として、それに対する理解を深め、社会公共の利益のために積極的に政治問題の討議や決定に参加することが、市民の義務といえます。

「(選挙に)関心がないといって寝てしまってくれれば、それでいいんですけれど......」などという言葉を政治家に言わせないよう、社会のため、そしてそこに生きる自分自身のため、国民としての公務を果たしましょう。

参考文献
長谷部恭男『憲法(第7版)』(新世社、2018年)
長谷部恭男編『注釈日本国憲法⑵』(有斐閣、2017年)
長谷部恭男編『注釈日本国憲法⑵』(有斐閣、2020年)
芹沢斉・市川正人・阪口正二郎編『新基本法コンメンタール憲法』(日本評論社、2011年)
木下智史・只野雅人編『新・コンメンタール憲法(第2版)』(日本評論社、2019年)


[1]) 瀧川裕英「なぜくじで決めないのか?」論究ジュリスト32号168ページ、瀧川裕英「世界はくじを引いている──くじ引き投票制の可能性」法と哲学7号23ページ。

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