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第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて①(2021年9月号)
弁護士 眞珠 浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
今年7月、「表現の不自由展」に行ってきました。
この展覧会は、2019年8月1日~10月14日、愛知県において開催された国際芸術展「あいちトリエンナーレ2019」における「表現の不自由展・その後」の展示内容を再構成したものです。この年の「あいトリ」は、不自由展の展示内容(※1)をめぐってテロ予告や脅迫等の妨害行為が相次いだため、わずか3日で中止を余儀なくされました(※2)(ただし、会期末1週間前に再開)だけでなく、愛知県知事に対するリコール不正署名事件に発展し、元県議会議員が逮捕されるに至ったことは記憶に新しいところでしょう。
今年の「不自由展」は、東京、名古屋、大阪の3ヵ所で予定されており、「あいトリ」以来不自由展に関心を持っていた私は、6月25日に始まる予定だった東京展(「表現の不自由展・その後東京EDITION&特別展」)に行くつもりでした。しかし、開催場所となっていたギャラリーの周辺に街宣車が押し寄せ「反日展に場所を貸すな」等と激しい抗議行動が行われたため、2つのギャラリーからの辞退が相次ぎ、展示は延期されてしまいました。また、その後、行われた名古屋展(「私たちの『表現の不自由展・その後』」、7月6日~11日)も、会場に届いた郵便物から爆発音がしたため、名古屋市が会場施設を臨時休館にすることによって、2日間で中止になってしまいました。そのため、東京ではもはや不自由展を見られないかもしれないと思った私は、大阪展(「表現の不自由展かんさい」)に注目することにしました。
大阪展の会場は、大阪府の施設「エル・おおさか」でしたが、その周辺でも街宣活動や抗議電話が相次いだため、指定管理者は許可を撤回してしまいました(※3)。しかし、これに対して実行委員会メンバーが行った撤回処分の執行停止の申し立てに対し、大阪地方裁判所は、7月9日、「基本的人権たる集会の自由、表現の自由を制限することができるのは、公共の安全に対する明白かつ現在の危険があるといえる場合に限られる」ところ、「本件センターの管理上支障が生ずるとの事態が、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されるとはいえない」として、施設利用を認めました。また、大阪高裁も同月15日、「主催者が催物を平穏に行おうとしているのに、その催物の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは憲法21条の趣旨に反する」として、大阪地裁の判断を支持しました。さらに最高裁も、同月16日、施設側の特別抗告を斥けたことで、この日から大阪展が始まりました(同月18日までの3日間)
そのニュースを見た私は、この機会を逃してはならないと、大阪行きを決意しました。当時、東京では緊急事態宣言が出されていたことは気になりましたが、一期一会の芸術鑑賞と憲法問題のフィールドワークは、決して「不要不急」ではありません。当日の仕事を終えた後、感染対策を徹底の上、新幹線に飛び乗りました(②へ続く)。
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※1 従軍慰安婦を表現した「平和の少女像」(キム・ソギョン、キム・ウンソン)や、昭和天皇の写真を燃やし、その灰を踏みつけるシーンのある映像作品「遠近を抱えてPartⅡ」(大浦信行)など、従軍慰安婦、天皇、憲法第9条、戦争、米軍基地、原発事故、人種差別等に関する16組の作家による23作品が展示されました。
※2 これについて、東京弁護士会は「『表現の不自由展・その後』展示中止を受け、表現の自由に対する攻撃に抗議し、表現の自由の価値を確認する会長声明」(2019年8月29日)、「『表現の不自由展・その後』展示再開の報に接しての会長声明」(同年10月7日)を発出しています。
※3 吉村洋文大阪府知事は、「(施設利用承認の)取り消しは当然」「非常に危険なことが起きる可能性だってある」「明らかに差し迫った危険がある」と述べて許可の取消に賛成しましたが、実行委員会の委員からは「憲法に保障されている表現や集会の自由を知事自らが脅かすことに加担している」と批判されました。