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憲法問題対策センター

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第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて➁(2021年9月号)

弁護士 眞珠 浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)

7月17日、いよいよ当日です。不自由展のHPを確認したところ、入場には整理券を入手しなければならないようです。そこで会場の「エル・おおさか」に向かいましたが、近くまで行くと、多数の護送車と警察官が配備された中、集まった街宣車からは大音量の軍歌らしき音楽と、不自由展の中止をマイクで叫ぶ喚き立てる声が聞こえてきました。施設前は、整理券配布時間の朝9時には既に長蛇の列が出来ていましたが、約1時間半並んだ後、ようやく夕方5時に入場できる整理券を入手することができました。整理券を入手してホッとしつつ会場周辺を観察すると、「反日行為は許さない」「表現の不自由展は対日本人ヘイト!」といったカードを掲げている反対派がいる一方で、「表現の不自由展への恫喝的嫌がらせやめろ!!」「歴史を直視できない大人ってかっこ悪すぎ。」といったカードを掲げて無言で立っている賛成派も相当数見られました。

その後、入場時間に再び会場を訪れ、荷物チェックを経た後、会場に入場できました。会場内は静かで特に混乱もなく、会場周辺の喧騒とのギャップを感じました。会場では混乱に備え、「弁護士」の腕章をつけたボランティアスタッフの姿も見かけました。

肝心の展示作品は、現代日本の表現の自由が、本来表現の自由の守り手であるはずの美術館や公的団体によって、如何に制約されてしまっているかを考えさせるものでした。保守政治家からの圧力や右翼からの抗議を過度に恐れる事なかれ主義的な態度がありそうです。展示作品中、議論が大きく分かれそうな作品は一部で、何故これが規制されなければならないのか?と疑問に思わざるを得ない作品が幾つもありました。例えば、さいたま市の俳句サークルで1位に選ばれ、三橋公民館の2014年7月の公民館だよりに掲載されるはずだった市民の俳句「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」(作者名非公開)は、同公民館によって掲載を拒否されました。「戦争放棄をうたった憲法9条を扱うことは政治的であり、議論が分かれるため一方の側に立てない」というのがその理由でした。市民が公権力に憲法を守れということは政治的なことでしょうか?公民館の職員は公務員なので、憲法尊重擁護義務(憲法99条)があります。当時は、安倍内閣による集団的自衛権の憲法解釈の変更が大きな政治的問題になっていた時期だったため、時の権力者の意向への忖度があったのかもしれません。この俳句の作者が不掲載について裁判所に提訴したところ、さいたま地方裁判所は不公正な取り扱いによる作者の期待の侵害を、また、控訴審の東京高等裁判所は不掲載による作者の人格的利益の侵害を認め、さいたま市に慰謝料の支払いを命じた(高裁の判断は最高裁で確定)のは当然でした。他の作品も紹介したいところですが、スペースの関係で、割愛させていただきます。

その後、大阪展は、大きな混乱や事件もなく、無事に3日間の会期を終えました。

これまで見てきたように、2019年の「あいトリ」の大騒ぎを経た2021年においてもなお、一連の不自由展は妨害行為を受け続け、名古屋では会期3日目に中止、大阪では裁判所で覆ったとはいえ一度は会場の使用許可が取消され、東京では未だ開催にすら至っていません(9月6日現在)。これで日本では、本当に表現の自由が保障されていると言えるでしょうか?東京展を開催できていないのは、会場予定だった2つのギャラリーが相次いで自主的に辞退したことによるもので、公権力が介入した名古屋展、大阪展とは問題の性質が異なります。しかし、右翼・保守勢力の妨害行為の結果、展覧会の円滑な実施が妨げられたという点では同じです。出品作の展示内容については、様々な意見があるでしょう。しかし自分の考え方に合わないからといって表現の場そのものを奪おうとする妨害行為を許していては、表現の自由の保障は無きに等しいものになってしまいます。フランスの思想家ヴォルテールが言ったとされる言葉「私はあなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」(※1)に立ち返るべきでしょう。

表現の自由を守っていくためには、私たち一人一人が、表現行為を支えて行く必要があります。東京展についても、たとえ混乱が生じても、会場を貸しても良いという勇気ある個人や団体が現れ、無事に開催できることを願っています。

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※1 もっとも、ヴォルテールの著作物にはこの言葉はなく、S・G・タレンタイアの著作「ヴォルテールの友人」の中の言葉とのことです。

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