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憲法問題対策センター

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第20回「憲法の本質と緊急事態条項」(2022年9月号)

弁護士 片木 翔一郎(東京弁護士会憲法問題対策センター委員)
憲法の本質と緊急事態条項

「憲法」とはどういうものを指すのかという問いには様々な意見があります。「憲法」とは、国家の理念や目標を決めた法のことを呼ぶ、と考える人もいます。確かに、日本国憲法にも「恒久の平和を念願し」(憲法前文)などと日本国の理念や目標が掲げられています。しかし、人類においてマグナ・カルタ、ワイマール憲法など多くの憲法が成立してきたのは、権力者に好き勝手な国家運営をさせないためでした。そういった歴史的経緯からは、憲法とは国家権力が暴走しないように縛るもの、すなわち「国家権力に対する拘束具」としての性質が、憲法の最も重要な本質であると考えられます。

ところで、現在、自民党を中心に、災害時などを想定して憲法に緊急事態条項という条文を追記しようという議論がなされています。自民党が発表している自民党改憲4項目の中にもこの緊急事態条項が含まれています。現在議論されている緊急事態条項とは、簡単にいうと、①ときの内閣が大災害等で緊急と判断した場合には国会の権能(立法権)を当該内閣が実質的に兼ねることができる、②国会議員の3分の2以上の多数で国会議員の任期を延長することができる、とする内容のものです。

従って、緊急事態条項を憲法に加筆すれば、憲法による国家権力(内閣)に対する束縛の程度を下げることになります。
このような緊急事態条項の創設を認めることは、せっかく悪者の手足を縛ったのに、「少し縄を緩めてほしい」と言ってくるからと、素直に縄を緩めてあげるようなものです。これを繰り返せば、或いは一度縄を緩めただけでも、手足を縛られている人は自力で縄をほどくことができるようになるかもしれません。

果たして、手足を縛られている人(国家権力)がいつか縄をほどいて、手足を縛っている人(国民)に襲いかかってこないという保障はあるでしょうか。歴史的な経緯からは、一般的に国家権力は腐敗し暴走しようとするものであるとわかっています。昨今のロシア大統領プーチン氏を見ていればそう感じる人も多いのではないでしょうか。憲法という縄を緩めるのは大変危険な行為です。
この、「縄を緩めるべきか緩めないべきか」という議論が、憲法改正の議論なのです。

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