アクセス
JP EN
憲法問題対策センター

憲法問題対策センター

 

第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編➁)(2022年12月号)

弁護士 眞珠浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
2022年公開の映画で考える憲法と人権

3 原発と人格権 「原発をとめた裁判長、そして原発をとめる農家たち」
岸田内閣は、原発の「最大限の活用を図っていく」と述べて原発回帰の姿勢を鮮明にし、原発の稼働期間を最長60年より延長するのみならず、原発の増設や建替え(リプレース)まで進めようとしています。東日本大震災による福島第一原発事故の教訓は、どこに行ってしまったのでしょうか。また、ロシアがウクライナの原発を占拠したり攻撃したりすることによって、原発が武器として利用される懸念が現実のものとして高まっている現在、原発の増設やリプレースは賢明な選択でしょうか。
「原発をとめた裁判長、そして原発をとめる農家たち」は、元福井地方裁判所裁判長の樋口英明氏と、再生可能エネルギーを推進する農家の方々を追ったドキュメンタリーです。同氏は裁判長時代、福井県大飯原発3、4号機の運転差し止めを認める判決を下しました。同氏は「原発が危険かどうかで、差し止めるか差し止めないかを決めるのは当たり前」と言います。判決は、「原子力発電所の稼動は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するものであって,憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである」としつつ、「本件原発の運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険があると認められる」として、差し止めを認めました。本判決の言うように、原発は単なる国のエネルギー政策の問題ではなく、事故が起こった場合、また、数十万年も残り続ける放射性廃棄物に晒される人々の人格権の問題と捉えるべきでしょう。憲法上、人格権は、上述の憲法第13条の「幸福追求権」として保障されると解されています。本判決中、「たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」との箇所は、市民感覚に沿った極めて真っ当なものであり、多くの人の共感を呼びました。この作品では、裁判官退官後、講演活動を続ける樋口氏の率直な声を聞くことができます。また、福島の原発事故によって多大な被害を受けた農家の方々が、農地における大規模太陽光発電を推進される姿は、原発に頼らない未来への希望を感じさせてくれます。

4 部落差別と人権 「わたしのはなし 部落のはなし」
いわゆる同和地区=被差別部落区出身の人々を就職や結婚等人生の重要な局面で差別する部落差別は、21世紀の現在も、未だ無くなっていません。1975年、被差別部落の地名を掲載した「部落地名総監」が発売されましたが、社会的に問題となったことで公に販売されることはほぼなくなり、一旦は問題が解消したようにも思われました。しかし、インターネット時代になって、ネット上で地名や住所が拡散されたり、被差別部落を撮影した動画が拡散される等、新たな人権侵害が問題となっています。GOOGLEは本年12月1日、被差別部落を撮影した約200本の動画を削除したとのことです。
「わたしのはなし 部落のはなし」は、部落差別をその歴史に遡って解説すると共に、被差別部落出身の方々が、その顔と実名を出して、差別の実情を語っているのが画期的なドキュメンタリーです。本作品は、差別される側だけではなく、各種の被差別部落を訪れて撮影した動画をインターネットにアップする人や、被差別部落出身者へのあからさまな差別心を語る人へもインタビューすることで、何故差別をしてしまうのか、部落差別の実情に迫ろうとしています。このような部落差別が「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とする日本国憲法第14条第1項の精神に真っ向から反することは明らかですが、それにもかかわらず未だ無くならない差別の現状とあるべき社会の姿について考えさせられます。

←第21回 ①へ戻る  第21回 ③へつづく→

憲法問題対策センターメニュー