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憲法問題対策センター

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第37回 シンポジウムを終えて(2025年3月号)

弁護士 菅 芳郎(東京弁護士会憲法問題対策センター 憲法改正問題対応部会部会長)
シンポジウムを終えて

本年2月12日に、当会主催の当センターの企画によるシンポジウム「韓国の戒厳令から考える緊急事態条項」が、リアル参加とweb参加のハイブリッド方式で開催されました。

これは、昨年12月3日に、我が国の隣国である韓国で、尹大統領によって突然宣布された「非常戒厳」をめぐる一連の事態(すなわち、大統領が3日の午後10時過ぎに突然、韓国憲法77条2項に規定されている緊急事態条項である「非常戒厳」を宣布し、その後、国会議事堂に入ろうとしている国会議員を、大統領の命令で軍が妨害し始めたところ、集まった市民が体を張ってこれに抵抗したため、無事に定足数を超える国会議員が議場に参集し、翌日の午前1時ころ、同条5項に基づく非常戒厳の解除要求決議を与党議員を含む全員一致で成立させ、大統領がこれを受けて非常戒厳を解除したという事態)を受けて、改めて我が国において、緊急事態条項を憲法に盛り込むことの是非などを考えようという企画でした。

登壇者は、早稲田大学の憲法学者で、緊急事態条項に関する研究の第一人者である愛敬浩二さん、非常戒厳の宣布された日に、現地の韓国国会前でこの事態を直接体験された新外交イニシアティブ代表の弁護士猿田佐世さん、安倍内閣の頃から、緊急事態条項の憲法への新設問題を報道してきた東京新聞特別報道部部長の中山洋子さん、という、このテーマでの登壇者としては、これ以上のメンバーは得られないであろうと思われるほどの方々でした。

事前の打ち合わせでは、流れの中で、日本と韓国のそれぞれの国の憲法教育の実態や、市民の意識の差などについても深掘りして行く方向も検討されたのですが、時間の制約があること、また、緊急事態条項そのものから少し遊離することになることから、面白い方向でしたがそこは控えることにして、今回の事態と、我が国の憲法に緊急事態条項を新設することが必要かを巡って、それぞれのお立場から、中身の濃いお話をいただきました。

そして、登壇者による最後のメッセージとして、愛敬さんからは、改憲論者の危機をあおるような言説に対しては、ひるむことなく冷静に問題点を指摘することが重要だというご指摘、中山さんからは、今後も、ご自身と東京新聞は、反知性主義的な勢力と闘う姿勢を維持していくという強い意志の表明、猿田さんからは、事実を直接体験したからこそ、あふれる偏向報道を切り裂くリアルの重さが感じられるお話をいただきました。

いずれの登壇者も、十分にお話いただくには時間が足りなかったことが残念でした。しかし、内容の濃いお話をいただき、私たちは、このシンポジウムで得られた学びを、ぜひとも生かしていきたいと思います。

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